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【怖い話|短編】夏の終わりの遺言

叔母の家
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夏の終わりの遺言

茹だるような夏の暑い日。僕たち家族は、父親の生まれた故郷に向かって車を走らせていた。僕たち家族は毎年、夏になると父親の実家に泊まりに行くのが恒例になっていた。僕が高校生になった頃から恒例行事ではなくなったが、約5年ぶりだろうか。少なくとも大学生になってからは初めてだった。

車で走る

今では祖父も祖母も他界してしまい、顔を見せに行く用事もなくなってしまった父親の地元。今回の旅が当然良い知らせであるわけがない。父親の姉、京子おばさんが亡くなったのがその理由である。

京子おばさんは父親の2歳年上で、生涯未婚を通した。僕と妹が小さい頃はよく一緒に遊んでくれたんだ。僕たち家族が毎年夏にお邪魔すると「あらー大きくなったねぇ!!」が定番の叔母さんの挨拶だった。

再会を喜ぶ叔母

叔母さんは祖父と祖母と一緒に暮らしていた。祖父祖母が立て続けに3年前に亡くなったのだが、叔母さんはそれから寂しさからか体調を崩し、一人では外出もままならなくなってしまったと聞いていた。山村の一軒家だ。お隣さんまでも少し歩かないといけないような土地だから、尚更大変な生活をしていたんだろう。

父親は母親を説得して、一緒に住まないか?と、叔母に何度も打診をしていたが、やはり実の父と母の思い出の地である実家を離れる決心はつかなかったようだ。不便でも家を守りたいと頑として聞かなかった。

叔母の家に着くと、父親の友人が出迎えてくれた。喪主は当然父親だ。遠くからくる父親のために昔の仲間があれこれ手配してくれていて、滞りなく全て準備が整っていた。きっと村社会の良いところなのだろう。

叔母の家

お通夜は到着した日に行われた。僕は持ってきた黒いスーツに腕を通したが、暑さで頭がくらくらする。なんでスーツって1.5倍ぐらい暑さが増しに感じるんだろうね…。夕方になると、会場には地元の人たちが集まっていた。僕と妹ははぼんやりと人々の話を聞きながら、夏の暑さに耐えていた。あたりは暗くなってきたと言うのに、やけにセミの鳴き声が大きく感じる。

ふと、叔母さんの遺影に目を向けた。すると、いつもの優しい笑顔ではなく、どこか思い詰めたような表情をしているように見えた。「あれ?」と思い遺影を見返すとにっこりと微笑んでいる。見間違いかな?暑いから幻覚でもみたかな?と思い、自販機で冷たい缶コーヒーを買った。

お通夜

しばらくすると住職さんがやってきて、お通夜が始まった。僕と妹は席に座り、お坊さんのお経を聞いていた。心の中で叔母さんに向け「ゆっくり休んでね」「今までありがとう」と別れの言葉を唱えつつ。祭壇に飾ってある遺影をみると、また表情が変わっていた。今度は怒っているようだ。隣の妹に「遺影の顔何か変じゃない?」と問いかけるも、「不謹慎なことを言うな」と叩かれた。

なにかざわつくものを感じながら、気にしないようにと見なかったことにした。暑さで頭がやられ、少し変になっただけだからと記憶に蓋をしようとした。だが、その日変な夢を見てしまったんだ。

夢の中で僕は虫取り網を持って祖父の家の庭を走っていた。すると縁側から祖父が「こら!こんな所に来たらダメだろうが!早く帰りなさい!」と言うんだ。祖母も隣で祖父の言うことに頷いていた。すると叔母が庭先から出てきて「〇〇ちゃん、〇〇ちゃん。叔母さんまだ死にたくないよ。寂しいよ。優しい〇〇ちゃんなら一緒にいてくれるよね?」夢の中の叔母さんは悲しそうに、でもどこか必死に僕に訴えかけてきたんだ。そしたら祖母に引っ叩かれて。

寝る大学生

目が覚めると父親の顔が目の前にあった。「大丈夫か?」父親の声に目を開けると、部屋は朝の光でほんのりと照らされていた。夢の中での出来事が鮮明に思い出される。叔母さんの言葉が心に残っている。「まだ死にたくない」って、どういう意味だろう。

翌日、葬儀を済ませ祖父と祖母、そして叔母の家を整理することになった。父親はこの土地を売るつもりのようだ。「こんな山奥だからな。買い手がいればだが」と笑ってはいたが、少し寂しそうだった。叔母の荷物は思ったより少なく、生前にかなり整理を済ませていたようだ。この実家のことだけをどうしていくのか心配していたみたいだ。

落ちはないけど、これが僕の体験した怖い話です。

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