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【怖い話|短編集】死相を映す湖の鏡

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死相を映す湖の鏡

山奥にあるその湖は、あまりにも美しく、その風景に心奪われた。

バイクを走らせるのが趣味の私にとって、未知の景色を求めてこの地へやってきたのは、運命のいたずらのように思えた。だが、地元の人々が口にする、湖にまつわる不気味な言い伝えを知るまでは。

「湖をある時間に覗き込むと、自分の死に顔が映るんだって。」

その話を聞いた時、半信半疑で笑ってしまったが、湖の畔に立つと、何故か心の奥底がざわついた。夕暮れ時、湖は静寂に包まれ、その美しさが一層際立っていた。私は湖面に目をやった。そこには、透明な水面が広がり、その美しさに心を奪われる。

しかし、時間が経つにつれ、不安と好奇心が入り混じった感情が湧き上がる。湖に映る自分の姿を見つめながら、内心で唾を飲み込んだ。そして、その時が来た。言い伝えの通りの時間、夜の帳が下り、湖は暗闇に包まれた。

「本当に見えるのだろうか、死に顔が…」

独り言のようにつぶやきながら、湖面を凝視する。すると、湖の水面がゆっくりと波打ち始め、私の心臓の鼓動が速くなるのが分かった。反射するはずのない、何かが水面に浮かび上がってくる。

それは、ゆっくりと、しかし確実に、私の顔へと変わっていく。だが、その表情は生きている私のものではなく、冷たく、青ざめたものだった。

「これが…私の…」

声も出ない。恐怖で身体が硬直し、湖から目を逸らすことができない。その時、背後から声がした。

「見ちゃいけないものを見たね。」

振り返ると、そこには老婆が立っていた。彼女の表情は哀れみに満ちている。

「あなたも、この湖の呪いに囚われたのよ。」

「呪い?」

「この湖は、死を予知する鏡。あなたの運命はもう決まったの。でも、恐れることはない。湖は、その時が来るまで守ってくれる。」

老婆はそう言い残し、闇に消えていった。私はその場に立ち尽くし、湖を再び見つめる。しかし、もう何も映らない。ただの暗闇だけが、私を見つめ返している。

その日から、私は湖の呪いを信じるようになった。そして、自分の運命を受け入れ、湖の美しさに心を寄せながら、毎日を過ごすことにした。死に顔を見たことが、私の人生を変えたのだ。

しかし、その呪いは本当に存在するのか、それともただの迷信なのか、真実は湖の底に沈んだままだ。

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