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【怖い話|短編】番犬

番犬
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番犬

深夜の静寂を破るように、隣家の犬が激しく吠え始めた。それは、悲鳴にも似た、異様な鳴き声だった。

私は窓から様子を窺った。隣家の庭には、黒く大きな犬が鎖に繋がれ、狂ったように吠え続けている。その目は不気味に赤く光り、まるで何かを警戒しているようだった。

不気味な鳴き声

次の日、隣家の住人である老婦人に「昨晩はうるさくてすみませんでした」と謝罪すると、老婦人は青ざめた顔で「あれは、ただの犬じゃないんです」と呟いた。

老婦人の話によると、その犬は亡くなった夫の形見で、生前は番犬として家を守っていたという。しかし、夫が亡くなってから、犬の様子がおかしくなった。夜になると激しく吠え出し、まるで何かを見ているかのように、ある一点を凝視するようになったという。

亡き夫の霊

ある晩、老婦人は恐る恐る犬が見ている方向を確かめた。すると、そこには何もないはずの空間に、人影のようなものがぼんやりと浮かび上がっていた。それは、老婦人の亡き夫の姿だった。

老婦人は恐怖で震え上がり、それ以来、夜になると犬が吠え出すたびに、夫の霊が帰ってきているのではないかと怯えるようになった。

私は老婦人の話を聞き、半信半疑だった。しかし、その夜、再び犬の鳴き声が聞こえた時、私は窓から隣家の庭を見た。

すると、庭の中央に、黒い人影が立っていた。人影は犬の方を向き、何かを語りかけているようだった。犬は嬉しそうに尻尾を振り、人影に寄り添っていた。

次の朝、隣家の老婦人は亡くなっていた。死因は老衰だったが、その顔は安らかで、まるで誰かに看取られたかのような穏やかな表情だった。

私は老婦人の葬儀に参列し、そこで不思議な光景を目にした。老婦人の棺の隣に、あの黒い犬が静かに座っていたのだ。犬は悲しそうな目で棺を見つめ、静かに涙を流していた。

別れと再会

その後、犬は老婦人の親族に引き取られたが、間もなくして亡くなったという。そして、隣家は空き家となり、今では誰も住んでいない。

しかし、今でも時々、深夜になると、あの犬の鳴き声が聞こえるという。それは、まるで老婦人と再会できた喜びを、あの世で報告しているかのような、優しい鳴き声だった。

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