鳴らない電話
古びたアパートの606号室。独り暮らしの大学生、亮介は徹夜でレポートを書いていた。午前3時を回った頃、突然部屋の固定電話が鳴り響いた。
「こんな時間に誰だろう?」
怪訝に思いながらも受話器を取ると、無言の後にノイズ混じりの低い声が聞こえた。
「もしもし…どちら様ですか?」
亮介が尋ねても、相手は何も答えない。ただただ不気味な呼吸音だけが続く。
「もしもし?聞こえますか?」
再度問いかけるも、反応はない。痺れを切らした亮介は電話を切った。
「変なイタズラ電話だな…」
そう呟き、再びレポートに集中しようとするが、不気味な電話のことが頭から離れない。
数分後、またしても電話が鳴った。恐る恐る受話器を取ると、あの時と同じ低い声が聞こえる。
「…お前だ…」
「誰だ?一体何が望みなんだ?」
亮介が叫ぶと、相手は一言だけ呟いた。
「…来るな…」
そして電話は切れた。
恐怖に震える亮介は、急いで警察に電話しようとするが、固定電話は繋がらない。携帯電話で110番に電話するも、圏外で繋がらない。
「一体何が起きているんだ…」
不安と恐怖で押しつぶされそうになりながらも、亮介は意を決して部屋を飛び出した。アパートの廊下は薄暗く、不気味な静けさが漂っている。
エレベーターに乗ろうとするが、動かない。仕方なく非常階段を駆け下りる。
5階、4階、3階…
階下へ行くにつれて、不気味な気配が濃くなっていく。
2階に着いた時、非常口のドアに不気味な落書きを見つけた。
「来るな」
それは、あの電話の声が呟いた言葉だった。
恐怖で足がすくむ亮介。しかし、このままここにいたらどうなるか分からない。意を決して1階へ続く階段を駆け下りる。
1階に着くと、アパートの入り口は固く閉ざされていた。ドアノブを回してもビクともしない。
「開けてくれ!誰か!」
必死に助けを求めるが、誰も来ない。
その時、背後から不気味な声が聞こえた。
「…来るなと言ったのに…」
振り返ると、そこには血まみれの女が立っていた。女はニヤリと笑い、亮介に向かってゆっくりと近づいてくる。
「いやああああ!」
亮介は悲鳴を上げながらアパートの外へ逃げようとするが、ドアは開かない。女はすぐそこまで迫っている。
「助けてくれ!誰か!」
絶望的な叫びも虚しく、女は亮介に手を伸ばす。
次の瞬間、亮介の意識は暗闇に呑み込まれた。
翌朝、アパートの住人が606号室のドアが開いているのを発見した。中に入ると、亮介の姿はどこにもなかった。
ただ、部屋の固定電話だけが不気味に鳴り響いていた。
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