白い狐
夏休み、僕たちはいつものように田舎のおじいちゃんの家に遊びに行った。その年は特別で、村のお祭りが10年ぶりに開催されるという。おじいちゃんとおばあちゃんは、僕たちに村の伝統や歴史を楽しみながら教えてくれた。
村長は、お祭りの前日に集会を開き、「この村には古くから伝わる言い伝えがある。お祭りの夜、夢に現れる白い狐を見た者は、その年に大きな幸運が訪れる」と話した。村の子供たちは、その話に夢中になり、お祭りの夜が待ち遠しくなった。
お祭りの夜、僕たちは盆踊りや屋台を楽しんだ。深夜、疲れて眠りにつくと、僕は不思議な夢を見た。白い狐が優しく微笑みながら僕に近づいてくる。その狐は、僕に何かを話そうとしているようだった。
朝、家族で夢の話をしていると、おじいちゃんが静かに言った。「白い狐の夢を見た者は、その年に大きな幸運が訪れるが、その狐は本当はこの世のものではない。彼らは、幸運を与える代わりに、見た者の大切な思い出を一つ持って行くんだ」。
僕は急に不安になった。夢の中で狐が何かを話そうとしていたのを思い出し、何か大事なことを忘れてしまった気がした。父と母は心配そうな顔をしていたが、おじいちゃんとおばあちゃんは優しく微笑んでいた。
その日の夕方、僕は近所の子供たちと遊んでいると、ふと、昨夜のお祭りで何をしたのか思い出せなくなった。僕は慌てて家に戻り、おじいちゃんに聞いた。「おじいちゃん、昨夜のお祭りで何をしたっけ?」
おじいちゃんは微笑みながら言った。「昨夜のことは忘れてしまったのかい?でも心配しないで。忘れたことより、これから作る思い出の方が大事だよ」。
僕はおじいちゃんの言葉を噛みしめながら、白い狐の夢とその不思議な力を思い出した。そして、大切なものを失うことで、新しい大切なものが生まれることを学んだ夏の日だった。
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