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鳥居の向こうに見たもの 後編
翌朝、母は恐怖を押し殺しながら、友達と一緒に朝食を取り、テントを片付けました。
皆には昨夜のことを話すべきか悩んだものの、誰もそんな不思議なことは見ていない様子で、ただ母だけがあの体験を引きずっているようでした。心の中では、「あれは夢だったんじゃないか」と自分に言い聞かせようとしていましたが、どうしてもその感覚が現実のものにしか思えませんでした。
帰りの道中、母はふと思い出したかのように、持ってきていたインスタントカメラを取り出しました。
前日に友達と撮った楽しい写真を確認しようと思ったのです。みんなで笑顔を浮かべて川で遊んでいる写真や、バーベキューのシーンがいくつも映っていて、その一瞬だけは気が紛れました。しかし、最後の一枚を見た瞬間、母は息を呑みました。
そこには、昨夜の鳥居が映っていたのです。
しかも、鳥居の前には確かに白い影が写っていました。それはまさに、母が昨夜見たあの女性の姿でした。
驚いた母はその場で友達に見せようと思いましたが、なぜか手が震え、何も言えずにカメラを閉じてしまいました。結局、友達にはその写真のことも、昨夜のことも何一つ話せませんでした。
家に帰ってからも、母はあの写真のことが頭から離れませんでした。カメラを現像に出すことさえ恐ろしくなり、結局そのフィルムはずっと手元に置いたままでした。さらに、その夜から母は奇妙な夢を見るようになりました。
夢の中では、いつもあの鳥居の前に立っているのです。そして、鳥居の向こう側には白い着物を着た女性が静かに佇んでいます。女性は一言も発さず、ただじっと母を見つめているのです。
夢から目覚めると、いつも汗びっしょりになっていました。これが何度も続き、母は恐怖に耐えきれなくなり、地元の神社でお祓いを受けることにしました。
何度かお祓いを受けた後、やっとその夢を見ることはなくなりましたが、今でも母は「あの山には二度と行かない」と強く言います。
この話を聞いたとき、私は背筋が凍る思いでした。もしあの時、母が何も見なかったら、そしてあの写真を見なかったら、今も夢に出てきていたかもしれないと思うと、恐ろしさは消えません。
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