鳥居の向こうに見たもの 前編
これは、私の母親が高校生の頃に体験した話です。
その年の夏、母は友達4人と一緒に、山奥にあるキャンプ場で一泊することにしました。そこは車で数時間かかる場所で、村を抜けた先の山間にひっそりと佇んでいるキャンプ場でした。
周囲には店もなく、自然の中で過ごすには最適な場所だと友達は盛り上がっていたそうです。しかし、母はその計画に少しだけ不安を抱いていました。それはキャンプ場のすぐ近くに古びた神社があったからです。
キャンプ場に着いたのは昼過ぎで、青々とした木々に囲まれたその場所は、一見すると何も問題はないように思えました。
皆でテントを張り、バーベキューを楽しみ、川で遊んだりと、夕方までは楽しい時間を過ごしました。しかし、ふとした瞬間に、母は神社の方に目を向けてしまうことがありました。神社は少し離れた場所にあり、木々の間からぼんやりと見える鳥居が、不気味なほどに静かにそこに佇んでいました。
特に苔に覆われた石の鳥居が異様で、何かを守っているような、逆に何かを閉じ込めているような感じがしたそうです。
夜が来て、辺りは完全に暗くなりました。
キャンプファイヤーを囲みながら友達と話していた母でしたが、だんだんと疲れてきたのか、みんな一人ずつテントに入って寝る準備を始めました。母も寝袋に入って目を閉じたものの、なぜか眠れなかったのです。外はひんやりとした風が吹いており、虫の鳴き声と共に、妙に静かな夜が広がっていました。
しばらくすると、母はテントの外に何か気配を感じました。
音はしないのに、何かが動いているような感覚です。不安に駆られながらも、母は勇気を出して外をそっと覗いてみました。すると、神社の方に視線を向けた瞬間、鳥居のあたりに何かが動いているのを見つけました。最初は風に揺れている木の枝だと思ったそうですが、よく見るとそれは人影でした。
それも、白い着物を着た女性のような姿だったのです。
その女性は鳥居の前でゆっくりと左右に揺れながら立っていました。
顔までは見えませんでしたが、その異様な存在感に母は凍りついてしまいました。目が離せず、心臓がドクドクと鳴るのが自分でも分かるほどでした。そして次の瞬間、女性はふっと鳥居を越えて姿を消しました。
母はその場で叫びたくなりましたが、声が出ませんでした。急いでテントに戻り、友達を起こそうとしたものの、誰も起きてくれませんでした。
母はそのまま一晩中眠れず、恐怖に耐えながら朝を迎えました。しかし、この恐怖の始まりはまだ終わっていなかったのです…。
後編はこちら
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