来訪者
ある寒い夜、私は仕事を終え、自宅のリビングでホットコーヒーを片手に一息ついていました。時計を見るともう深夜の1時を回っていて、外は静まり返り、ただ時折吹く風の音だけが響いていました。
そんな時、突然、玄関の方から「コンコン」と小さな音が聞こえました。最初は風のせいかと思いましたが、間隔を置いて再び叩く音が響きました。
「こんな時間に誰だ…?」
私は不安になりながらも、玄関のインターホンのモニターを確認しました。
しかし、モニターには誰も映っていません。奇妙に思いながらも、警戒しつつ玄関に向かいました。ドアの前に立つと、明らかに外から微かな音が聞こえます。それは、まるで誰かがドア越しに立っているかのような気配でした。
「誰かいるんですか?」思わず声をかけてしまいましたが、返事はありません。
恐る恐るチェーンをかけたままドアをほんの少しだけ開けてみると、夜の冷たい空気が流れ込んできました。廊下には誰もいない…そう思った瞬間、私は凍りつきました。
廊下の端、薄暗い光の中で、はっきりと人影が揺れているのが見えたのです。それは人の姿というより、黒く影のようにぼんやりとした何かでした。私は目を見開き、手が震えるのを感じながら、すぐにドアを閉めました。
「おかしい…今のは何だったんだ…?」
そのまま恐怖心を抑えながら、リビングに戻ろうとした時です。
突然、背後から大きな音がしました。振り向くと、今度はリビングの窓が開いているではありませんか。風が入ってくるはずなのに、カーテンは不自然に動いていません。私は確かに窓を閉めたはずです。
「なんで窓が開いてるんだ…?」
呟いた瞬間、またしても背筋が凍るような感覚が襲ってきました。
足元に何かがいる気がして、恐る恐る下を見ました。そこには、冷たく白い手が、ゆっくりと床から這い出してきているのが見えました。まるでそれは、何かが私の足を掴もうとしているかのようでした。息を呑み、恐怖で体が硬直したまま、声を上げることもできません。
「何だこれ…!」
震えながら足を引こうとしましたが、もう遅かった。冷たい手が私の足首をしっかりと掴んでいました。その瞬間、体全体が氷のように冷たく感じ、意識が遠のいていくのを感じました。必死に足を振り払おうとしましたが、その手の力はますます強くなり、私を引き込もうとしているかのように感じました。
「助けて…誰か…」
その言葉が喉から漏れた瞬間、不意に掴まれた感覚が消え、気がつけば床にへたり込んでいました。
足元を見ると、手は跡形もなく消えていました。放心状態のまま、しばらくその場に座り込んでいましたが、心の底からこみ上げる恐怖に耐えきれず、すぐに玄関に駆け寄り、外に飛び出しました。
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