惨劇のトンネル
冷たい雨がフロントガラスを叩きつける深夜2時。人気のない山道を、一台の古い軽自動車が喘ぎながら走っていた。運転席には、大学生の翔太。友人たちとのキャンプは楽しかったが、慣れないテント泊と連日の酒盛りで疲れ切っていた。
「チッ、また雨かよ。早く帰りてぇ…」
独り言を呟きながら、カーナビの案内に従い、薄暗いトンネルへと進入する。トンネル内は湿った空気が立ち込め、ヘッドライトの光が不気味に揺らめいていた。
突然、ラジオから流れていた音楽がノイズ混じりになり、次の瞬間、無音に。
「おいおい、なんだよ…」
苛立ちながらも、ラジオのチャンネルを変えようとしたその時、バックミラーに白い人影がぼんやりと映った。
「は?」
目を凝らして確認しようとしたが、人影は消えていた。気のせいだろうか?心臓が嫌なリズムを刻み始める。
トンネルの出口が近づくにつれ、ヘッドライトの光が明滅し始めた。そして、出口が見えた瞬間、再びバックミラーに白い人影が現れた。今度は、こちらをじっと見つめているように見えた。
「うわああああ!」
恐怖のあまり叫び声を上げた翔太は、ハンドルを握る手に力が入らず、車は中央線を越えて対向車線へ。幸い対向車はなかったが、そのままガードレールに激突した。
車のエアバッグが勢いよく飛び出し、全身を打った翔太はしばらく気を失っていた。意識が戻ると、全身が痛み、車はひどく損傷していた。
「やべぇ…スマホ、スマホは…」
ポケットを探ると、スマホは無事だった。安堵するのも束の間、再びバックミラーを見ると、白い人影がゆっくりとこちらに向かってくる。
「嘘だろ…」
震える手でドアを開け、雨の中を無我夢中で走り出した。後ろを振り返ると、人影は少しずつ距離を詰めてくる。
「誰か!助けてくれ!」
叫び声を上げながら、必死に山道を下る。雨足はさらに強くなり、視界はほとんどない。何度も転びながら、ただひたすらに街の灯りを目指した。
夜明け近く、ようやくコンビニの灯りが見えた。力を振り絞って駆け込み、店員に助けを求めた。警察に通報してもらい、事情を説明するが、警察官は半信半疑の様子。
「トンネルの手前まで一緒に行ってもらえますか?」
警官に促され、パトカーで現場に戻る。しかし、事故の痕跡はなく、翔太の車は忽然と消えていた。
その後、翔太は精神的に不安定になり、大学を休学。あの夜の出来事は、彼の心に深い傷を残した。
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