【洒落怖】深夜の第三病棟
ある夜、大学病院の新人看護師・美咲が深夜勤務に当たった。
美咲が配属された第三病棟は、以前から多くの噂が絶えない場所だった。
過去には、夜中に子どもの笑い声が聞こえる、廊下を歩く足音がするのに誰もいない、見知らぬ人影がチラリと現れるなどの話が後を絶たない。
中でも最も有名なのは、火事で亡くなったはずの患者が、時折、生前に使っていた部屋の窓から外を見ているというものだった。
美咲はそうした話を半信半疑で聞いていた。
しかし、彼女は看護師としての使命感が強く、どんな病棟でも患者のために最善を尽くす決意を持っていた。その夜、深夜勤務の際、美咲は不可解な現象に直面することになる。
美咲がその部屋に足を踏み入れた瞬間、彼女は何か特別なものを感じた。空気が一変し、時間がゆっくり流れるような感覚に陥った。部屋は異様に冷えており、彼女の息が白く霧化するのが見えた。車椅子に座る人形の目が異常にリアルで、まるで生きているかのように美咲を見つめ返していた。
美咲は、この部屋と人形には何か物語があるのではないかと考えた。恐怖を感じながらも、彼女はこの部屋とその人形に対する奇妙な魅力を感じていた。しかし、人形の目が動いた瞬間、美咲の心は冷たい恐怖で満たされた。人形から「帰らないで」という声が聞こえたとき、彼女の恐怖は頂点に達した。
美咲はその場から逃げ出したが、その夜以来、彼女は何度も同じ夢を見た。夢の中で、彼女はその部屋に戻り、人形が語り始める。人形はかつてこの病院で治療を受けていた少女のもので、火事で亡くなる前に、彼女はこの人形をいつも側に置いていた。少女は孤独で、人形が唯一の友達だった。火事の夜、彼女は人形を抱いて逃げようとしたが、煙と炎に囲まれて動けなくなり、その場で息を引き取った。
この話を聞いて、美咲は深い悲しみと共感を感じた。看護師として、彼女は患者とその家族の苦悩に寄り添うことが使命だと感じていたが、この少女と人形の話は彼女にとって特別な意味を持った。美咲は、この少女の魂が安らかに眠れるよう、部屋に小さな花を捧げることにした。それ以来、不思議とその部屋から奇妙な現象は消え、美咲は再びその部屋を訪れる勇気を持った。
彼女は、看護師としての仕事を通じて、患者だけでなく、過去にこの場所で苦しんだ魂たちにも寄り添うことができると感じた。
美咲の体験は、彼女が看護師としての使命感を深め、人々だけでなく、彼女の周りにある見えない存在にも思いやりを持つことの大切さを再認識するきっかけとなった。
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