消えた秘密基地
昭和の終わりのある夏の日。蝉の声が響き渡る中、小学5年生のタカシ、ケンジ、ユミの仲良し3人組は、いつものように路地裏を探検していた。
「ここ、なんか面白そうじゃね?」
ケンジが指差したのは、古びた木造の一軒家。外壁は剥がれ落ち、庭には雑草が生い茂っていた。
「誰も住んでなさそうだし、ちょっと見てみようぜ」
タカシが言うと、3人は錆びついた門扉を恐る恐る押し開けた。
「わあ、すごい古い家だ」
ユミが呟くと、3人は家の中へと足を踏み入れた。薄暗い廊下、埃っぽい畳、そして、奥の部屋には一台の古いブラウン管テレビ。
「テレビがあるじゃん!誰か住んでるのかな?」
ユミが言うと、ケンジは首を横に振った。
「いや、誰も住んでないと思う。だって、電気メーター回ってないし」
「じゃあ、このテレビはどうやって映ってるの?」
タカシが不思議そうに尋ねると、ケンジは肩をすくめた。
「さあ、幽霊かなんかじゃない?」
ケンジの言葉に、ユミは少し怖気づいたが、好奇心の方が勝った。3人はテレビの前に座り、スイッチを入れてみた。すると、なんとテレビがついたのだ。
「え、なんで?」
3人は驚きながらも、テレビに映る白黒のアニメに見入った。それからというもの、3人は毎日のようにその家に集まるようになった。
学校帰りに寄り道し、持ち寄ったお菓子を食べながら、テレビを見たり、トランプをしたり。時には、肝試しと称して薄暗い部屋を探検したりもした。
夏休みが終わり、秋風が吹く頃になっても、3人は変わらずその家で遊んでいた。しかし、ある日、いつものように家にやってくると、家の前に見慣れない看板が立っていた。「近日中に取り壊し」
3人は顔を見合わせ、言葉を失った。
「そういえばさ、この家、電気ついてなかったよな」
タカシが呟くと、ケンジとユミも頷いた。
「じゃあ、あのテレビはどうやって映ってたんだ?」
ユミが尋ねると、ケンジは首を横に振った。
「わからないけど、きっとこの家には何か秘密があったんだと思う」
取り壊しが始まる前に、3人は最後に一度だけ、その家に入った。薄暗い部屋、埃っぽい畳、そして、静かに佇むブラウン管テレビ。
「ありがとう、楽しい時間をくれて」
3人は心の中で呟き、家を出た。
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