肝試しごっこ
小学校高学年の頃、僕らの間で流行っていたのは「肝試しごっこ」。夜の公園や墓地を探索し、誰が一番怖がらずにいられるかを競い合う、子供ならではの遊びだった。ある日、僕たちは新たな肝試しスポットとして、廃墟となった洋館に目をつけた。
その洋館は、かつては裕福な一族が住んでいたと噂されていたが、火事で焼け落ち、以来誰も住んでいないという。薄暗い森の中にひっそりと佇むその姿は、昼間でも不気味な雰囲気を漂わせていた。
僕たちは夕暮れ時に洋館の前に集合し、日が完全に沈むのを待って中へと侵入した。懐中電灯の光だけが頼りの薄暗い館内は、軋む床板や剥がれ落ちた壁紙が、恐怖心を煽る。
二階へと続く階段を上ると、奥に一室だけ明かりが灯っている部屋があった。恐る恐るドアを開けると、そこには古びたピアノが置かれていた。そして、誰もいないはずの部屋で、ピアノがひとりでに音を奏で始めたのだ。
美しい旋律だったが、不気味なほどに静寂を切り裂き、僕たちの心臓を鷲掴みにした。恐怖に駆られた僕たちは、一目散に洋館を飛び出し、家に逃げ帰った。
翌日、僕たちは学校で昨日の出来事を話し合った。すると、クラスメイトの一人が、「あの洋館には幽霊が出るって噂がある」と言い出した。話を聞けば聞くほど、僕たちは昨日の体験がただの偶然ではないような気がしてきた。
それから数日後、肝試しに参加したメンバーの一人が、学校に来なくなった。彼の家を訪ねると、母親は憔悴しきった様子で、「息子が昨晩から様子がおかしい。ずっとピアノの曲を口ずさんでいる」と語った。
僕たちは、彼が洋館のピアノに取り憑かれたのではないかと疑ったが、確証はなかった。数日後、彼は再び学校に現れたが、以前のような明るい笑顔は消え、まるで別人のように無表情になっていた。
彼は僕たちに、あの夜、洋館で見たものを語り始めた。ピアノを弾いていたのは、白いドレスを着た少女の幽霊だったという。そして、その少女は彼に、「また来てね」と囁いたそうだ。
彼の話を聞いた僕たちは、恐怖で震え上がった。そして、二度と洋館には近づかないと誓い合った。しかし、それから数ヶ月後、彼は再び姿を消した。そして、彼の行方は今も分からないままだ。
あの洋館には、今もピアノを弾く少女の幽霊がいるのだろうか。そして、彼女は一体誰を待っているのだろうか。僕たちは、あの夜の恐怖を胸に秘めながら、今も答えを探し続けている。
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