タクシーの罠
郊外の小さな街、平和そのものに見えるこの場所で、最近、夜の街に潜む暗い影がひっそりと恐怖をまき散らしていた。
特に夜職に従事する者たちの行方不明が相次ぎ、地元の警察も警戒を強化していたが、その手はいつも事件の後を追うのがやっとだった。
A子さんもその街のキャバクラで働く一人。
その日も夜の仕事で笑顔を振りまいていたが、急な家庭の事情で帰省しなければならなくなり、予定していた送りをキャンセルして店を早めに出た。街の夜は静まり返っており、ひんやりとした空気が肌を刺す。A子さんは最寄りのタクシー乗り場に向かい、ほどなくしてタクシーが一台現れた。車体には会社のロゴもなく、典型的な黒塗りの車だったが、その時はただただ急いでいたA子さんにはそれが問題にはならなかった。
「どちらまで?」運転手の声は低く、少し掠れていた。
「最寄りの駅までお願いします。」A子さんは返事をしながらスマホをいじり、家族への連絡に夢中になっていた。
黒塗りの車内の中で、運転手は後部座席のA子さんに向かって鏡越しに話しかけた。「お急ぎのようですね。何か大事な用ですか?」
A子さんは少し話す気になり、「はい、家族の事情で急に帰らなくてはいけなくなって」と答えた。運転手はうなずきながらも、車内のミラーを通じて彼女の表情を伺っていた。
「ご心配なことがおありでしょう。安全運転を心がけますから、ご安心くださいね。」運転手の言葉には親切さが感じられたが、車は徐々に人通りの少ない場所へと進んでいった。A子さんがその異変に気づいたのは、すでに普段とは異なるルートを走っている時だった。
「あの、こちらの道、私の行きたい駅へは通じていないような…」
「少し近道をしております。ご安心を」と運転手は答えたが、その声には先ほどまでの温かみが消え、何かを隠しているような冷たさが漂っていた。
A子さんはそれ以降行方不明だ。
店はA子さんが次の日も出勤しないことに気づき、心配して警察に通報した。しかし、A子さんは自宅にも帰っておらず、行方不明となった。警察は街の防犯カメラを調べ、A子さんがタクシーに乗り込む様子を捉えていた。さらにその調査で、そのタクシーが登録されていない違法なものであることが判明した。
夜の街は、見た目の安全とは裏腹に、どんな恐怖が潜んでいるかわからない。あなたが次にタクシーに乗る時、その安全を、もう一度確認してみてはどうだろうか?
コメント