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【怖い話|短編】生き霊の影

ある普通の家族の家
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生き霊の影

ある晩、除霊師のSさんと深夜のカフェで会ったときのことです。彼から聞いた話は、私の心に深く刻まれました。Sさんは、その穏やかな口調とは裏腹に、数多くの霊障を経験してきた人物。彼が語る話は、いつも私たちの想像を超えたものでしたが、その日聞いた話は特に印象深いものでした。

カフェのコーヒー

「ある家族の話なんだ」と、Sさんは言い始めました。一見すると何の変哲もない、幸せそうな家族の話。しかし、彼らの日常は、生き霊によって徐々に侵食されていったのです。

長女のA子が変わり始めたことが全ての始まりでした。A子は突然、制御できない怒りや悲しみに駆られるようになり、家族に対して暴言を吐くようになりました。当初はただの反抗期かと思われましたが、A子の周りで起こる不可解な現象は、一家に深い恐怖を植え付けました。

「物が勝手に動くんだよ、A子がいない部屋から彼女の声がするんだ。」Sさんは静かに語りました。家族は最終的に、この異常な状況から逃れるため、Sさんに助けを求めたのです。

Sさんが家族のもとを訪れたとき、彼は直ちにA子が生き霊に憑かれていることを感じ取りました。生き霊とは、生きている人間の強い感情や未練が具現化したもの。その力は時に、本人さえも制御できないほど強力なものです。

SさんはA子の目をじっと見つめながら、静かに問いかけました。「どんな気持ちかい? 辛いのかい? 苦しい? 痛い? どうして欲しい?」この問いに、A子はゆっくりと言葉を紡ぎました。「辛くて…苦しい…」彼女の声は震え、その瞳には深い絶望が宿っていました。

恨みを持つ生き霊に憑かれた娘

そして、A子の口から出た次の言葉は、部屋にいる全員の心を凍りつかせました。「家族が幸せそうにしているのが許せない。壊してやる。粉々に…」この言葉は、A子自身のものというよりは、彼女に憑りついた生き霊の感情が具現化したものでした。それは、生き霊が抱える深い嫉妬と憎悪の感情が、A子を介して表現された瞬間でした。

Sさんはその場の空気を重くしながら、「今日中に片をつけましょう」と言い、早速除霊の準備を始めました。彼は家族に、この除霊儀式が精神的にも肉体的にも負担になる可能性があると説明し、全員の同意を得た上で、儀式に必要な道具を並べ始めます。

しかし、この生き霊は予想以上に強力な念を持っており、夕方から始めた儀式は簡単には終わりませんでした。部屋の中は緊張で張り詰め、時折A子を通じて生き霊が発する叫び声が、家族の心を揺さぶります。Sさんは一心不乱に儀式を続け、生き霊との闘いに集中します。彼の額には冷や汗が浮かび、唱える呪文の一つ一つが、この戦いの重さを物語っていました。

外は徐々に暗くなり、そして夜が更けていきます。儀式は一晩中続き、家族は疲労と不安でほとんど眠ることができませんでした。しかし、Sさんの不屈の努力と、家族の結束力が奏功し、ついに生き霊との闘いに終止符を打つことができました。

夜が明け、初めての朝日が部屋に差し込む頃、儀式は完全に終了しました。A子の顔には久しぶりに穏やかな表情が戻り、部屋には安堵の息遣いが満ちていました。Sさんは、長い一夜が終わったことを家族に告げ、「これで大丈夫です。もう彼女を苦しめるものはありません」と静かに語りました。

それから、Sさんはそっと父親を別室に呼びました。彼は最初からあることに気づいていたようです。この生き霊は、実は父親の不倫相手のもので、その女性が家族に対して強く、深い恨みを抱いていたのでした。父親は自分の行いについて言い訳をしようとしましたが、Sさんの落ち着いた態度と深い洞察に触れ、徐々に心を開いていきます。

理解を示した父親

最終的に、父親は自分の過ちを認め、家族を第一に考えると約束しました。

そう言い終えるとSさんは私の目を見つめてきました。

「これだけ強い念だったから普通じゃないんだよね。何か、呪術のようなものに手を出したんだと思う。父親が改めなくても、不倫相手との仲は終わりだったと思うよ。」

Sさんはさらに言いました。「除霊しちゃったでしょ? 人を呪わば穴二つってね。」

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