校庭の井戸
小学校のころ、私たちの学校では、毎年夏に肝試しが行われました。暗い夜道を歩いて、校庭をぐるっと一周するだけなのですが、その道の途中には、古い井戸がある場所を通らなければなりませんでした。
その井戸は、昔から「呪われている」と言われていて、誰も近づきたがりませんでした。ある日、その井戸にまつわる噂を耳にしました。井戸の近くで名前を呼ばれたら、決して返事をしてはいけないというのです。返事をすると、その人は二度と戻ってこないと言われていました。
肝試しの当日、友達数人と一緒に出発しました。懐中電灯を手に持ちながら、笑い合いながら歩いていましたが、井戸が見えてくると一気に緊張が走りました。誰も話さず、ただ黙って井戸のそばを通り過ぎようとしていたその時、「おい…」と低い声が聞こえました。最初は誰かのいたずらだと思い、無視して歩き続けました。
でも、次の瞬間、また声がしました。「おい、返事しろ…」
それはまるで耳元で囁かれたような、湿った冷たい声でした。友達と顔を見合わせ、誰も何も言わず、ただ早足になって歩き続けました。だけど、その声はどんどん強く、はっきりと聞こえてきました。
「返事をしろ…聞こえているだろう?」
私は恐怖で震えながら、どうにか声を振り払おうとしました。でも、足がすくんでしまい、その場に立ち止まってしまったのです。すると、その瞬間、背後から冷たい風が吹き、肩に何かが触れたような感覚がしました。
思わず振り返ると、誰もいない。友達たちはすでに少し先に進んでいて、私だけが井戸の近くに取り残されていました。逃げ出そうとしたその瞬間、再び声がしました。
「ここにいるよ…返事をしろ…」
恐怖が限界に達し、私は全力で走り出しました。友達に追いつくと、みんな顔が青ざめていました。誰もが同じ声を聞いていたのです。
それ以来、私はその井戸の近くを通ることを避けるようになりました。しかし、何年か後に聞いた話では、あの井戸は学校が建つ前、村の住民が自殺した場所だったと言います。井戸の近くで返事をしてしまった人は、今でも行方不明のままだそうです。
その噂は、今も消えることなく、井戸のそばを通る人々の間でささやかれています。返事をしなかった私は、今ここにいますが…あの声が再び聞こえることを、今も恐れています。
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