不動産屋の体験談
僕は不動産業を営む田中と言います。
お客さんに最高の家を紹介することが僕の使命だと自負しています。でもね、この仕事をしていると、時に説明できない「現象」に遭遇することがあるんです。今から話すのは、そんな一件について。
案内したのはA家族、父・母・5歳息子の3人家族です。彼らは、日当たりの良い一軒家を探していました。子どもの成長に最適な環境、つまり学校や買い物施設の近くで、家族が安心して暮らせる場所を希望していたんです。
その日、僕がA家族に案内した物件は、理想的な立地にある一軒家でした。日当たりも良く、周辺にはスーパーや病院、小学校があり、一見すると完璧な家族向けの物件でした。しかし、その物件には一室だけ、おかしな部屋があったんです。それは、異様に寒く、暗い部屋が存在するというものでした。
物件の案内は順調に進んでいましたが、その一室の前に来たとき、A家族の子供が僕の手をぎゅっと握りました。「ここ、こわい…」子供の小さな声が、僕の心に響き渡りました。部屋に足を踏み入れると、一気に温度が下がり、まるで冬の寒さのよう。そして、部屋の隅には、まるで人が立っているかのようなぼんやりとした影が…
その瞬間、子供が「こわい、こわい!」と叫び始めました。僕たちは急いでその部屋を出ましたが、玄関に向かう途中、廊下の端で、僕は一瞬、包丁を持った中年男性の幽霊を見たのです。その姿はすぐに消えましたが、恐ろしい表情でこちらを睨んでいました。
僕も一瞬氷ついちゃいましてね…その後A家族に何を話したか覚えていないのですが、「この家は紹介するべきではない。」と思ってしまい、早々に内見を終わらせて家を出るように促したんですよ。そして、玄関まで来て絶句しました。Aさん家族は泣き出しそうになってましたね。
だって、玄関のドアに大小さまざまな手形がびっしりと付いていたんです。
もちろん内見に来た時にはそんなものありませんでした。僕も仕事ですから、事前にチェックをしていましたし、手形がなかったのは間違いありません。しかし、現実に帰り際の玄関ドアには血濡れた手形がまるで助けを求めるようについていたのです。
A家族は逃げるように帰って行きましたが、僕はその後ろ姿をただ見送ることしかできませんでした。
その日以来、僕はその物件を誰にも紹介していませんが、どなたか契約されたんでしょうか。会社にあった販売可能リストからいつの間にか消えていました。
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