ワンピースの女
「ねぇ、あのトンネル、幽霊が出るって知ってる?」
同僚の陽菜が昼休みに話しかけてきた。私は興味なさそうに頷いた。心霊スポットの話には慣れていたし、正直、信じていなかった。しかし、陽菜の話は違った。彼女の話は、ただの噂話ではなく、実際に体験した人の話だった。
「友達が夜中に車で通ったら、バックミラーに女の人が映ってたんだって。白いワンピースを着て、長い髪をなびかせて……」
私は少しだけ興味を惹かれた。そのトンネルは、私が毎日のように通勤で通る道にあったからだ。
数日後、私は残業で遅くなり、深夜にそのトンネルを通ることになった。車のヘッドライトだけが頼りの暗闇の中、私は陽菜の話を思い出して少し不安になった。
すると、バックミラーに何かが映った。白いワンピースを着た女の人だ。私は恐怖で体が硬直した。
「気のせいだ、気のせいだ……」
私は自分に言い聞かせたが、女の人は消えない。むしろ、どんどん近づいてくるように見える。私はパニックになり、アクセルを踏み込んだ。しかし、車はスピードを出せない。まるで、何かが引き止めているかのように。
バックミラーを見ると、女の人はもう、私の車のすぐ後ろにいる。白い顔が、不気味に笑っている。私は恐怖のあまり、叫び声を上げた。
次の瞬間、私は目を覚ました。
そこは、病院のベッドの上だった。私は事故を起こしていたのだ。幸い、命に別状はなかったが、車は廃車になった。
私は事故のショックで、しばらくの間、記憶が曖昧だった。しかし、あの女の人のことは、鮮明に覚えていた。
退院後、私は陽菜に事故のことを話した。彼女は青ざめた顔で言った。
「やっぱり、あのトンネルは……」
私はもう、あのトンネルを通ることはなかった。しかし、あの女の人のことは、今でも忘れられない。
ある日、私はネットで、あのトンネルの事故について調べてみた。すると、同じような事故が過去にも何度も起きていることがわかった。そして、事故の目撃者は皆、白いワンピースを着た女の人を見たと言っていた。
私は確信した。あの女の人は、幽霊だったのだ。
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