病院の古びた写真
私は風邪をひいて高熱が下がらず、意識がぼんやりする中、近所の古びた病院へ行くことにしました。
建物自体は昭和初期のままの姿を残しており、廊下に足を踏み入れると、懐かしいような、しかしどこか不気味な雰囲気が漂っていました。壁には黄ばんだポスターや過去の栄光を示すかのような賞状が飾られており、どれも時代を感じさせるものでした。消毒液の匂いと、遠くから聞こえてくるかすかな機械音が、私の緊張を一層高めます。
受付で名前を告げ、待合室で順番を待っていると、ふと何かが気になりました。周りには数人の患者が座っているだけで、誰も私に関心を示している様子はありません。それでも、視線を感じるのです。どこかから、じっと見られているような気がしてなりませんでした。
その視線の正体を探ろうと待合室を見渡したとき、壁の一角にかかっている一枚の写真に目が止まりました。白黒の写真には、年老いた医師が写っており、その眼光は鋭く、まるで生きているかのようにこちらを見つめているように感じられました。気のせいだと思おうとしましたが、何かが心に引っかかり、不安が拭い去れませんでした。
やがて、看護師が私の名前を呼び、診察室に入るよう促しました。診察室に入ると、そこにも同じように薄暗い照明があり、机の上には山積みのカルテが置かれていました。年配の医師が私を見上げ、「さあ、座ってください」と低い声で言いました。その声には、どこか冷たさと威圧感があり、私の心臓はドキドキと高鳴りました。
医師は私の話を聞きながら診察を進め、喉を診てから「ただの風邪だ」と診断しました。しかし、私はその瞬間、医師の顔に一瞬だけ不気味な笑みが浮かんだのを見逃しませんでした。その笑みは、まるで何かを知っているかのように不自然で、不気味さを増すばかりでした。
診察が終わり、処方箋を受け取って診察室を出ようとしたその時、医師がふと「気をつけるんだよ」と言い残しました。その言葉に一瞬足を止めましたが、振り返る勇気はなく、そのまま病院を後にしました。
帰宅して薬を飲み、布団に潜り込んだものの、あの視線と医師の言葉が頭から離れませんでした。不安な気持ちを抑えきれず、私はインターネットで病院のことを調べてみることにしました。すると、その病院は長い歴史の中で数々の怪奇現象が報告されており、特に奇妙な風邪が流行った時期に多くの患者が亡くなったという話が見つかりました。
さらに調べを進めると、あの白黒写真に写っていた老人についての記述にたどり着きました。彼は、かつてその病院で名医と呼ばれた医師でありながら、ある時期から患者が次々と亡くなり始め、その原因は彼が何らかの方法で病を広めたのではないかと噂されていたのです。
その夜、私は高熱にうなされながら眠りにつきましたが、夢の中であの老人が私をじっと見つめていました。逃げようとしても、足が重くて動けず、ただその視線に捕らえられるばかりです。目が覚めた時、汗でびっしょりになり、震えが止まりませんでした。
それ以来、私はその病院を避けるようになり、近づくことさえもしません。何かが、私に触れてはいけないものに触れたのだと、直感的に感じたのです。それが何だったのかを確かめる勇気は、今も私にはありません。
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