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【洒落怖】夜泣きの宿

【洒落怖】夜泣きの宿

夜も更けていた。

山間のひっそりとした民宿に足を踏み入れた時、心地よい疲労とともに、ほっと一息つく自分がいた。この週末は、仕事の疲れを癒やすため、ひとり静かな時間を過ごす予定だ。民宿のオーナーは、年老いた温かみのある笑顔で迎えてくれたが、その瞳には何か訴えかけるような深い悲しみがあったように思えた。

部屋に案内されると、古びた和室が目に飛び込んできた。畳の香りと木のぬくもりが、都会の喧騒から逃れてきた心を癒やしてくれる。窓の外には、月明かりに照らされた森が広がり、その美しさに心奪われながらも、どこか不穏な空気を感じ取った。

就寝前、布団に入りながら、何故か心臓の鼓動が早くなるのがわかった。静寂の中、遠くから聞こえる奇妙な声が、不安を煽る。それは、まるで誰かが泣いているような、しかし人間のものとは思えない声だった。

夜中、不意に目が覚めた。

部屋の隅で何かが動く音が聞こえる。息を潜め、じっとしていると、ゆっくりとドアが開く音がした。心臓の鼓動が耳を打つ。しかし、誰も入ってこない。その時、外から再びその奇妙な声が聞こえてきた。今度はもっと近く、もっとはっきりと。恐怖で身体が硬直する中、何かが部屋の中をうろついている気配を感じた。

床のきしむ音、そして、突然、布団の端がゆっくりと持ち上がる。息を飲む間もなく、冷たい何かが足を這う。恐怖で声も出ない。それは、まるで何かが私を観察しているかのようだった。その瞬間、心の中で決断した。この恐怖から逃れなければ。

勇気を振り絞り、布団を蹴り飛ばし、部屋の灯りをつけた。

しかし、そこには何もいない。ただ、部屋の隅には、古びた人形がひとつ、静かに座っていた。その人形の目が、じっと私を見つめているように感じた。心臓が跳ねる中、外へ飛び出すことを決意。

ドアを開け、廊下を駆け下り、オーナーに助けを求めた。オーナーの表情が一変すると、彼は静かに話し始めた。この民宿には古くから伝わる妖怪の話があり、それは不幸な事故で亡くなった者の霊が、訪れる者に悲しみを伝えるという。しかし、それを見た者は、特別な縁があるとも言われていた。

夜が明け、心に残る恐怖と共に民宿を後にした。

オーナーの言葉が心に響いている。特別な縁、それは恐怖を超えた何かを意味しているのかもしれない。都会に戻る道中、心の奥底には、あの夜の出来事が深く刻まれていた。

しかし、同時に、人間とは異なる存在との不思議な出会いが、私の世界を広げてくれたことも感じていた。民宿での一夜は、ただの休暇ではなく、自分自身と向き合う旅となった。そして、あの妖怪との出会いが、私に新たな視点を与えてくれたことを、深く感謝している。

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