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【怖い話|短編】鏡の祠

鏡の祠
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鏡の祠

ある秋の終わり、帰省中の僕は、ふと思い立って地元の神社を訪れることにしました。

夕方、ちょうど日が沈みかける頃、静かな神社へと足を運びました。この神社は森の中にひっそりと佇み、紅葉の時期には鮮やかな赤や黄金の葉が舞い、秋の終わりには独特の物寂しさを漂わせる場所でした。

久しぶりに訪れると、昔の記憶が鮮明に蘇ってきました。

神社への訪問

幼い頃、友人とよくここで遊んでいたこと、そして「奥の祠には近づくな」と大人に言われていたこと。その祠には封印がされている、何か良くないものが潜んでいるという噂を、みんな真剣に信じていました。

友達の間では“神隠しの祠”と恐れられた場所です。今思えば、ただの噂話で、子供が立ち入らないように言い聞かせるための言い伝えに過ぎないと思っていました。

「大人になってから見ると、何も怖いことなんてないな」

僕は少し笑って、神社の奥へと足を進めました。冷え込んできた秋の空気が肌に刺さるようで、周囲の木々が揺れ、風がざわめき立てる音がどこか不気味に響いています。秋の夕暮れが一層、神社の静けさを引き立てていました。

やがて、見覚えのある古い祠が木々の奥に姿を現しました。

思っていた以上に小さく、すすけた木造で、扉には所々苔が生えているのが見えました。祠の中には何があるのだろうという好奇心が湧き上がり、自然と近づいていきました。ふと足元を見ると、落ち葉が積もり、長年人が足を踏み入れていないことを示すように、道はすっかり埋もれています。

祠の発見

そっと祠の扉に手をかけ、ゆっくりと開けてみました。驚いたことに、長年放置されていたにもかかわらず、扉はまるで毎日開け閉めされているかのようにスムーズに開きました。中に一歩足を踏み入れると、狭い空間の中央に古びた鏡が掛かっていました。

「なんでこんなところに鏡があるんだ?」

誰に聞かせるわけでもなく、自分に問いかけました。鏡は、割れてはいないものの表面は曇り、ほこりが被っていました。手でそっと埃を払って鏡を覗き込むと、そこで異変に気づきました。

鏡の中に映っているのは、今の自分ではなく、子供の頃の僕でした。あどけない顔をした、10歳くらいの僕が、まるで鏡の中からこちらを見返しているのです。

最初は一瞬驚いて、見間違いかと思いました。だが、何度見てもそれは確かに幼い頃の自分で、しかも、その姿はじっと動かずに、こちらを見つめ続けている。

古い鏡との対峙

「……なんで……」

声にならない言葉が口をついて出ました。恐怖心がじわじわと心の奥から湧き上がり、背中に冷たい汗が流れました。鏡の中の“子供の僕”は微笑んでいるようでいて、どこか表情が不自然で、まるで悪意を含んでいるかのようでした。僕は無意識に一歩後ずさりましたが、足がふらついて倒れそうになりました。その瞬間、鏡の中の自分が一歩前に出るように動いたのです。

「まさか……そんなはずはない……」

慌てて鏡から視線を外し、立ち去ろうとしましたが、体が鉛のように重く、動かないのです。そして再び鏡を見てしまいました。鏡の中の僕は、まるで何かを訴えるように微笑んだまま、手を伸ばしてきます。その瞬間、全身に冷たい何かが流れ込んだかのような感覚に襲われ、思わず目を閉じて振り切ろうとしました。

やっとの思いで祠の外に飛び出し、呼吸を整える間もなく、あたりの異様な静けさに気づきました。先ほどまでの紅葉はすべて消え、木々の葉は枯れ果て、どこか薄暗く、空気が重い。

夕暮れのはずが、まるで夜が訪れたかのように辺りは暗く、深い影が広がっています。

現実の歪み

足元に目をやると、何かがざわざわと動き出し、落ち葉が不自然に渦巻いているのが見えました。

これは尋常ではないと、恐怖が限界を超え、僕は無我夢中で神社を駆け下りていきました。走っても走っても、風が耳元でざわめき続け、背後に何かがいるような気配を感じます。どこかで、もう一度振り返りたい気持ちがありましたが、振り返ったら「それ」がいると思い、必死に前を向き続けました。

やっとの思いで神社の境内に戻り、古い友人にこの話をしました。友人は真剣な表情で僕の話を聞き、眉をひそめながら静かに言いました。

「……その祠、もう随分前に倒れて、取り壊されたはずだよ。確かにあの辺には昔、祠があったけど、あんまり良くない話があってな。誰も触れないようにしてたんだ」

「じゃあ、俺が見た祠って、何だったんだ?」

戻れぬ神社の境内

自分の言葉が震えを含んでいることに気づきました。友人はただ黙って首を横に振り、何も言わず、僕の肩を軽く叩きました。

それ以来、僕はその神社には二度と近づかないようにしています。

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