真夜中の釣果
深夜1時。30代独身の僕は、仕事でのストレスを解消するため、人気の少ない海岸で夜釣りを楽しんでいた。波の音と月の光だけが、静寂を破る唯一の存在。
釣り糸を垂らしながら、缶ビールを一口。潮風を感じながら、都会の喧騒を忘れ、しばし安らぎの時間を過ごしていた。
しかし、その時、不気味な気配を感じて顔を上げた。辺りは闇に包まれ、遠くの街灯だけがぼんやりと海面を照らしている。しかし、何かが違う。まるで、誰かに見られているような感覚。
「気のせいかな…」
そう呟いて再び釣り糸に目を戻したが、気配は消えない。それどころか、どんどん強くなっていく。心臓が不気味に脈打ち、背筋が凍りつく。
「誰だ?そこにいるのは誰だ?」
恐怖を抑えきれず、声に出して問いかけた。しかし、返事はない。ただ、不気味な気配だけが、闇の中から僕を包み込む。
恐怖に駆られ、僕は釣り竿を放り出し、車へと走り出した。ヘッドライトを点け、闇を切り裂くように海岸線を飛ばした。バックミラー越しに見えるのは、ただ暗闇が広がるのみ。
しかし、気配は消えない。まるで、僕を追いかけてくるかのように。
アクセルを踏み込み、なんとか自宅へと辿り着いた。急いで車から降り、鍵を開け、家の中に飛び込んだ。
ドアを閉め、鍵をかけ、電気をつけた。心臓はバクバクと音を立て、全身から冷や汗が噴き出す。恐怖で震えながら、窓の外を見た。
しかし、そこには何もなかった。ただ、静かな住宅街が広がっているだけ。
「夢だったのか…」
そう思おうとしたが、何かがおかしい。玄関のドアノブが、ゆっくりと回っている。
「まさか…」
僕は恐怖で凍りついた。ドアノブは回り続け、カチッという音が聞こえた。
次の瞬間、ドアがゆっくりと開いた。
僕は叫び声を上げ、後ろに飛びのいた。しかし、そこには誰もいなかった。ただ、開いたドアから、生暖かい風が流れ込んできた。
僕は恐怖で震えながら、ドアを閉めた。そして、二度と開けることはなかった。
あの夜、一体何が起こったのか。僕は今でも分からない。しかし、あの時の恐怖は、決して忘れることはないだろう。
そして、今でも時々、あの時の気配を感じる。誰かに見られているような、追われているような感覚。
もしかしたら、僕はまだ、あの夜の恐怖から逃れられていないのかもしれない。
コメント