前世からのメッセージ
大学生のAは、ぼんやりと前世の記憶があることを感じていました。
一度前世で学習しているため、彼の学業成績は常にトップクラス。スポーツも得意とするいわゆるモテるタイプです。しかし、彼が持つ前世の記憶は具体的な出来事や人物を思い出せるほど鮮明ではなく、特定の食べ物の味や色、ある場所に立った時の感覚といった断片的で曖昧なものでした。それでも、これらの記憶には強い懐かしさや親しみを感じています。
Aは大学進学を機に、地元岡山を離れ東京へ上京しました。
前世での母親と父親の存在が現生の家族関係に影響を与え、それほど仲が良好ではなかったため、親元を離れる決断をしました。その結果、彼は学費や生活費を親に頼らずにバイトに明け暮れ、自立する生活を送っています。
ある日、日常が突如として狂い始めます。
深夜のコンビニバイトに出掛けたAの元に、一人の体がふくよかな女性が現れます。その女性は店内に入るわけでもなく、自動ドアの横に立ち、不気味に「ニタニタ」と笑いながらレジにいるAを見つめてきます。
「ちょっと気持ち悪いな…」とAは感じますが、同時にデジャヴのような既視感を覚えます。どこかでこれと似たような経験をした気がするのですが、思い出すことはできません。
数日後、別のバイト先からの帰宅時、Aは自宅のポストが荒らされていることに気づきます。
無理やり開けられたポストから、自身宛の手紙がエントランスに散乱していました。「なんだよこれ…」と思いながらも、疲れ切っていたAは自宅のドアを開け、泥のように眠ってしまいます。
深い眠りについていると、Aの携帯電話が鳴りました。非通知からの着信。
寝ぼけながら電話に出ると、相手は無言。しばらくしてから、はぁはぁと荒い息遣いだけが聞こえてきます。その瞬間、Aは気づきました。「あのコンビニの女だ」。ポストの件もきっとあの女がやってに違いないと思いました。
そう考えた瞬間、目眩と共に急に頭痛がしました。頭の中に記憶が流れ込んできます。現生での記憶、前世での記憶が入り混じり走馬灯のように駆け巡ります。突然の頭痛がや止むと、Aは忘れていた記憶を思い出しました。
デジャヴのように感じていた、コンビニの女の視線は前世の記憶でした。前世でも容姿端麗で誰にでも優しかったAは、その女に勘違いをされてしまい付き纏われることになりました。Aは何度も迷惑だからやめて欲しいと伝えますが、その女の行動はどんどんエスカレートしていきます。引っ越しをしても電話番号を変更しても、何をしても執拗に追いかけてきます。
前世でも、自身の家のポストが破壊され、エントランスに郵便物が散乱していたことがありました。不審な電話が頻繁に掛かってきていたことも思い出します。そして自身の命が長くないことを悟ります。
そう。前世でAは、あの女に殺されていました。
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