幹線道路と郵便ポスト
あの日、私はいつものように仕事からの帰り道、幹線道路を走っていました。通勤時間帯を過ぎ、すでに辺りは薄暗くなっていました。この道路は、普段は多くの車が行き交い、昼夜を問わず賑やかです。しかし、その日は妙に静かで、街灯の光さえぼんやりとしていました。まるで、道路全体が不気味な何かに包まれているかのような感覚に襲われました。
前方に赤い郵便ポストが突然現れました。私はぎょっとしました。
この道路沿いには住宅地もなく、店舗もありません。ましてや郵便ポストが設置されるような場所ではありません。しかし、そのポストは確かにそこにありました。私は何度も瞬きをして、ポストが幻ではないことを確認しました。不可解な気持ちを抱えながらも、深く考えずにそのまま通り過ぎました。
その瞬間、車の後部座席から鈍い音が聞こえました。振り返ると、後部座席に封筒が一枚、ぽつんと置かれていました。私は息を飲みました。その封筒は、私がこの車に乗る前には確かに存在しなかったものでした。
しかも、差出人も宛先も書かれておらず、ただ私の名前だけが丁寧に書かれています。不安が胸を締め付ける中、封筒を恐る恐る開けました。
中には、古びた紙に「戻ってこい」とだけ書かれたメッセージが入っていました。まるで、何かが私を引き戻そうとしているかのように。その瞬間、車のエンジンが突然停止し、ヘッドライトも消え、周囲は漆黒の闇に包まれました。街灯さえもその光を失い、辺りは完全な闇となりました。私はパニックに陥り、車のエンジンを再起動しようと何度もキーを回しましたが、全く反応がありません。
窓の外に目をやると、さっき通り過ぎたはずの郵便ポストが、今度は私の車のすぐ横に立っていました。ありえない距離を一瞬で移動してきたかのように。
それもただのポストではありませんでした。投入口から何かがこちらをじっと見つめているかのような気配を感じたのです。その視線に捕らえられた瞬間、冷たい汗が背筋を伝いました。
次の瞬間、郵便ポストの投入口から黒い影が伸びてきました。それは人の腕のようにも見えましたが、異様に長く、指先が異常に細く伸びていました。その影の腕が、ゆっくりと車のドアに向かって伸び、私を引き寄せようとしてきたのです。恐怖で体が凍りつき、声すら出ませんでした。何とか車のドアロックを押そうとしましたが、指が言うことを聞きません。
心臓が激しく鼓動し、頭の中は真っ白になりました。必死に目を閉じて祈りました。次に目を開けた時、私は自宅の駐車場にいました。
あの不気味な郵便ポストも、黒い腕も消え去っていました。全てが悪夢だったのかと、安堵の息をついたのも束の間、後部座席に再び視線をやると、そこにはあの封筒がまだ置かれていました。
今度は封筒の中に、新たなメッセージがありました。「次は逃げられない」とだけ書かれていたその言葉を見た瞬間、背筋に冷たいものが走りました。気づけば、玄関のチャイムが鳴り響き、その音が鳴り止むことはありませんでした。
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