握られたライター
夏休みも中盤に差し掛かった8月のある夜、大学生の翔太、美咲、拓也、莉子、そして悠真の5人は、肝試しの計画を立てていた。行き先は、地元で有名な心霊スポット、旧福永トンネル。かつては主要道路として使われていたが、今は使われず、不気味な噂が絶えない場所だ。
真夜中、5人は翔太の車でトンネルへと向かった。トンネルに近づくにつれ、ひんやりとした空気が車内を満たし、虫の声だけが不気味に響く。ヘッドライトがトンネルの壁を照らし出すと、古びた落書きや、得体の知れないシミが浮かび上がる。
「なんか、本当にヤバそうな雰囲気だな…」 莉子が呟くと、他のメンバーも緊張した面持ちで頷いた。
トンネルの奥へと進むにつれ、期待と不安が入り混じる。しかし、いくら進んでも何も起こらない。幽霊が出る、奇妙な音が聞こえる、そんな噂は嘘だったのかもしれない。
「なんだ、全然怖くないじゃん」 拓也が強がって言うが、内心ほっとしているのは明らかだった。
彼らはトンネルの真ん中あたりで車を止め、持ってきた線香に火をつけた。煙がゆらゆらと立ち上り、かすかに線香の香りが車内に漂う。
「これで、お清め完了! 幽霊さん、怒らないでね~」 美咲が冗談めかして手を合わせた。
その後、特に何も起こらず、彼らは家路についた。しかし、数日後、地元のニュースで衝撃的な事実を知る。肝試しに行ったあの夜、旧福永トンネルで殺人事件が発生していたのだ。
警察からの連絡を受け、5人は福永警察署へと向かった。取調室で、刑事の厳しい視線を受けながら、彼らはあの夜の出来事を詳細に説明した。しかし、刑事の表情は険しいままだ。
「実は…被害者は、翔太くんの名前が入ったライターを握りしめていたんだ」 刑事の言葉に、5人は言葉を失った。翔太のライターが、なぜ殺人現場に?
翔太は心当たりがないと言うが、疑いの目は向けられる。警察は翔太の周辺を徹底的に調べ、友人関係やアリバイを細かく確認したが、決定的な証拠は見つからなかった。
釈放された後も、5人の間には重い空気が漂っていた。あの夜の出来事が、彼らの心に暗い影を落としていたのだ。
数週間後、悠真が突然失踪する。連絡も取れず、行方も分からない。残された4人は、再び恐怖に襲われる。これは偶然なのか、それとも…。
警察が再び捜査に乗り出す中、翔太の車から被害者の毛髪が発見された。
全ての証拠が翔太を犯人として指し示していた。しかし、翔太は必死に無実を訴える。果たして、真実はどこにあるのか。あの夜の旧福永トンネルで、一体何が起きたのか。真相は闇の中へと消え、5人の大学生は、一生消えることのない傷を負ったまま、それぞれの道を歩んでいくことになった。
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