目次
深夜の終電車
深夜、会社の残業から解放され、終電に乗ることになった。明日開かれる、新規事業の会議資料を作成していたんだ。
この会議は僕にとって大きなチャンスだ。発案者は事業リーダーとしての道が開かれる。そんな重要な日の前夜、疲れながらも期待に胸を膨らませていた。
駅のホームに着くと、不思議と誰もいなかった。時計を見ると、電車が来るまであと10分ほど。カバンからイヤホンを取り出し、僕は音楽を聴きながら電車を待つことにした。
音楽を聴きながら、ふと向かいのホームに目を向けると、そこには同年代くらいの若い女性が一人立っていた。彼女の美しさに、思わず見惚れてしまう。その時、彼女が僕に気付いたようで、ニヤリと笑った。マスクをしているにも関わらず、何故かその笑みが伝わってきた。
すると、スピーカーから電車が入ってくるアナウンスが流れ、線路の向こうの暗闇からはガタンゴトンという音が聞こえてきた。僕は心の中で、「やっと家に帰れる」と思っていた。
しかし、その瞬間、「一緒に行こう」という女性の声が脳内に響いた。その声を聞いた僕は、何かに強く引き寄せられるように線路の方へと引っ張られる感覚に襲われた。咄嗟に近くのベンチにしがみつくが、その力はあまりにも強く、指が外れた。
しかし、なんとかその場に留まることができ、助かった。目の前を止まらずに電車が通過していった。あまりの出来事に僕は混乱しつつも、冷や汗が止まらなかった。
その時、向かいのホームに駅員が出てきた。
座り込んでいた僕は、呼吸が整わずにその動きをただ見守ることしかできなかった。駅員は僕に気付き、「もう終電は終わっています。外に出てください」と告げた。
コメント