カゲオンナ
大阪の古い街並みを抜ける夜の帰り道、地元の大学生・悠太はいつもと違う道を通った。その日は友達との飲み会が遅くなり、いつもよりも人通りの少ない時間帯だった。まわりは既に寂しく、時折通る車のヘッドライトだけが頼りの灯りだった。
悠太が老舗のうどん店と廃墟となった映画館の間の細い路地にさしかかったとき、ふと冷たい風が吹き抜けた。その時、何かがおかしいと感じた。彼の影が、なぜか自分の動きとは逆の方向に伸びていたのだ。気のせいかと思いつつも、不安を感じながらも足を進めた。
悠太はさらにその影を凝視した。影は徐々に形を変え、細長い女性のシルエットへと明瞭になっていった。不自然に長い黒髪が風になびき、その細い腕は異常に長く伸びているように見えた。彼の動きとは裏腹に、その影はゆっくりと、しかし確実に壁に沿って動いている。
その動きはまるで水の中を漂うかのように滑らかで、一瞬、悠太は目を疑った。影は彼をじっと見つめているかのようで、その場に凍りつくほどの恐怖を感じさせた。心臓の鼓動が速くなる中、悠太は恐怖に駆られ、走り出した。だが、その影もまた速く、彼と一緒に走るように動いた。
家に辿り着くまでの数分間、悠太は振り返ることなく走り続けた。家のドアを閉めると同時に、外から何かがドアに触れる音がした。息を切らして窓から外を見ると、その「カゲオンナ」はいなかったが、今までの恐怖が嘘のように静かな夜が戻っていた。
翌日、悠太はその出来事を調べるためにインターネットで「カゲオンナ」と検索してみた。すると、近年関西地方で目撃情報が増えているという都市伝説の存在が明らかになった。伝説によれば、この「カゲオンナ」は、一度自分の影に取り憑かれた者を追い続け、夜道で彼らを独り占めにしようとする存在だった。
恐怖が現実のものとなったあの夜から、悠太は人気のない道を避け、いつも人のいる場所を選んで歩くようにしている。しかし、彼の心の奥底には常に一つの疑問が残っていた。あの「カゲオンナ」は本当に去ったのか、それともまだどこかで、彼の影として存在しているのかという疑問だ。
自室で悠太は、ゆっくりと壁を這うように部屋の中を巡る黒い影を見た。
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