午前0時の交差点
深夜、人気のない通りでタクシーを拾った。運転手は不気味なほど無口で、バックミラー越しに見える目は異様な光を放っていた。それはまるで、深淵を覗き込むような、底知れぬ闇の色だった。目的地を告げると、無言で頷き、車は静かに走り出した。
窓の外を流れる景色は、次第に見たこともない不気味なものへと変わっていった。見慣れたはずの街路樹は黒く歪み、葉は一枚残らず枯れ落ちていた。建物は崩れかけ、窓ガラスは全て割れて、まるで空虚な眼窩のようだった。人影は一つも見当たらない。不気味な静寂だけが、この空間を支配していた。
恐怖を感じ、運転手に話しかけようとしたが、声が出ない。まるで、声帯が凍りついたように。喉から絞り出されるのは、乾いた息だけだった。私は、この空間から隔離されたように、孤独を感じていた。
車はいつまでも走り続け、ついには見渡す限りの荒野に出た。不毛の大地には、一本の草も生えていなかった。空は厚い雲に覆われ、星も月も見えなかった。そこで車は止まり、運転手が振り返った。
その顔は、もはや人間のものではなく、恐ろしい形相に変貌していた。皮膚は青白く、目は爛々と輝き、口からは鋭い牙が覗いていた。絶叫しようとした瞬間、意識は闇に呑み込まれた。
目が覚めると、そこは自分のベッドの上だった。悪夢だったのかと安堵したが、何かがおかしい。部屋の時計は、タクシーに乗る前の時刻を指していた。まるで、時間が巻き戻されたように。そして、ポケットの中には、見覚えのない黒い石が入っていた。それは、まるで燃え尽きた炭のように冷たく、不気味な光を放っていた。
それ以来、私は深夜にタクシーに乗ることをやめた。あの夜の出来事は、現実だったのか、それとも悪夢だったのか。今でも分からない。ただ、あの黒い石と、あの不気味な運転手の顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
そして、時々、深夜に窓の外を見ると、一台のタクシーが止まっていることがある。運転手はいない。ただ、バックミラーだけが、不気味な光を放っている。それはまるで、私を待っているかのように。
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