地獄鏡
古びた屋敷の薄暗い屋根裏部屋。埃まみれのトランクの中から、奇妙な金属製の筒が見つかった。それは、片方の端がレンズのように膨らんだ、奇妙な形の覗き穴だった。その表面には、微かに光る古代文字が刻まれ、不気味な雰囲気を漂わせていた。
興味本位で覗き穴を覗き込んだ者は、皆、息を呑んだ。レンズの向こうには、鮮やかな未来の光景が広がっていたのだ。成功を収めた自分の姿、愛する人と幸せに暮らす未来、あるいは世界を揺るがす大事件。覗き穴は、覗き込む者の深層心理を読み取り、最も渇望する未来を映し出すようだった。
未来を知ることができた者たちは、最初は歓喜した。成功を約束された若き実業家は、大胆な投資で巨万の富を築き、社交界の花形となった。幸せな未来を確信した孤独な女性は、運命の出会いを果たし、温かい家庭を築いた。そして、大事件を予見したジャーナリストは、スクープ記事で名声を手に入れた。
しかし、やがてそれは狂気へと変わっていった。巨万の富を手にした実業家は、傲慢になり、酒と女に溺れ、事業は破綻した。幸せな家庭を築いた女性は、夫の成功を妬み、嫉妬に狂い、家庭は崩壊した。そして、名声を手に入れたジャーナリストは、真実を歪曲し、スキャンダルを捏造し、社会から追放された。
覗き穴は、未来への希望を与えるどころか、覗き込んだ者の心を蝕み、破滅へと導く呪われた道具だったのだ。そして、ある日を境に、覗き穴は恐ろしい変化を遂げた。
レンズの向こうに広がるのは、もはや輝かしい未来ではない。燃え盛る炎、血に染まった大地、人々の悲鳴が響き渡る地獄絵図。覗き穴は、未来ではなく、絶望と恐怖に満ちた地獄の光景を映し出すようになったのだ。
それは、現実世界への侵食の始まりだった。覗き穴から流れ出る禍々しいエネルギーは、周囲の人々を狂気に駆り立て、世界を破滅へと導いていく。花は枯れ、鳥は鳴き止み、空は暗雲に覆われた。人々は互いを疑い、憎しみ合い、殺し合った。
そして、覗き穴を覗き込んだ者たちは、地獄の業火に焼かれ、永遠の苦しみを味わう運命を辿るのだ。
かつて成功を収めた実業家は、焼け落ちた屋敷の中で、孤独と後悔に苛まれながら息絶えた。幸せな家庭を築いた女性は、廃墟となった家で、狂気に取り憑かれたまま餓死した。そして、名声を手に入れたジャーナリストは、世間から忘れ去られ、誰にも看取られることなく死んでいった。
覗き穴は、今もなお、世界のどこかで誰かを待ち続けている。未来への好奇心に駆られた者が、再びその呪われたレンズを覗き込む日を。そして、その者は、地獄の業火に焼かれ、永遠の苦しみを味わう運命を辿るのだ。
コメント