首くくり人形
山形県のある山村では首くくり人形というものが信じられている。これは一説によると、現代の「てるてる坊主」の原型になったもので、自身の悩みや不安を語りかけたあと、首を絞め吊るすことで、すべての悩みから解放されると言う。
この伝承を知った高校生のA君は、交通事故の後遺症で視力を失っていた。
以前はバスケに情熱を注ぎ、将来プロの選手になることを夢見ていた。だが、事故がすべてを変え、彼の夢をあっけなく奪ってしまった。A君は再び自身の足でコートを走り、バスケをやりたいという切望を抱きつつも、その望みが叶うことはないと諦めかけていた。
A君にとってバスケットは特別なものだった。小学生の頃、NBAにハマり熱心にレイカーズを応援していた。A君のお気に入りはコービーブライアント。A君はずっとコービーに憧れ、いつかアメリカでバスケットボールをすることが夢になっていた。
A君は首くくり人形の伝承を耳にしたとき、ほんのわずかだが希望を見出した気がした。密かに人形を作った。A君は自分の悩みを打ち明けた。「もう一度、バスケットボールをやりたい」と心から願った。そして、自宅の裏庭にある古木にそれを吊るした。
数日後、奇跡が起こった。A君は徐々に視力を取り戻し始め、やがて白杖なしで一人で歩けるようになったのだ。数週間後には、A君は地元のバスケットボールチームに参加し、コートを駆け回ることができた。彼の夢が現実となった瞬間だった。
A君が参加したチームの活躍は目覚ましく、半年後に行われた大会で、万年初戦敗退だったチームが地区大会で優勝するまでに急成長した。これは、視力を失った少年の心とチームメイトの心が共鳴した良い結果だったのだろう。
しかし、A君がバスケをやることは今後ないだろう。
伝承では、首くくり人形は悩みを解消する代わりに大切なものを奪っていく。A君はバスケットボールをする喜びを取り戻す代償として、歩く力を失った。
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