消えた足跡
私の家の近くには、昔から誰も通らない古い山道がある。
木々が生い茂り、昼間でも薄暗いその道は、近所の人々から「呪われた道」として恐れられていた。理由は分からないが、子供の頃から「決して通ってはいけない」と両親や近所の大人たちに口を酸っぱくして言われてきた。
しかし、私はそういう話をあまり信じない質で、むしろその禁じられた道に興味を持っていた。
ある秋の夕暮れ、私はついにその道に足を踏み入れる決意をした。
乾いた落ち葉を踏みしめながら進むと、周囲はますます静まり返り、風すらも止まったように感じた。途中、何度も後ろを振り返ったが、そこには何もない。しかし、妙な違和感が私の背後にまとわりつくようだった。
何かに見られている。
誰かが、ついてきている。そんな気配を感じるようになり、私は徐々に足早になった。
道の先はさらに薄暗く、やがて小さな鳥居が現れた。
古びた木製の鳥居は半ば朽ち果て、長い間誰も通っていないことが明らかだった。それでも私は、何かに導かれるようにその鳥居を目指して走った。
鳥居の向こうには何もない、ただの山道が続いているだけだったが、何かが変わるかもしれないという直感に従っていた。
息を切らしながら鳥居をくぐり抜けると、突然、背後の気配が消えた。
ほっと一息つこうと立ち止まり、ふと足元を見ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
私が走ってきた道には、自分の足跡が一つも残っていなかったのだ。乾いた土の上に、私の靴跡が全く見当たらない。振り返って確認しても、落ち葉が散りばめられた地面はまるで誰も歩いたことがないかのように静まり返っていた。
焦りと恐怖が一気に込み上げ、もう一度背後を振り向いた。その時、鳥居の向こう側、ぼんやりと薄暗い木々の間に、何かが立っているのが見えた。
人影のようだったが、その姿は明らかに普通ではなかった。背丈は人間ほどだが、全体が霧のようにぼやけていて、顔もはっきりとしない。ただ一つ確かなことは、そいつがこちらをじっと見つめているということだった。息が詰まり、体が動かなくなった。
しばらくその場に立ち尽くしていたが、やっとの思いでその視線から逃れるために再び走り出した。
何度も振り返らないように自分を戒めながら、ただひたすら走り続けた。ようやく家にたどり着き、振り返ると、家の明かりが温かく私を包み込んだ。しかし、それでも背後の気配は消えたわけではなかった。
あの日以来、私は二度とあの道には近づかなかった。
家族には何も言わなかったが、鳥居をくぐった瞬間に何か大きなものが私を追っていたのだと今でも確信している。もし、あの時鳥居をくぐっていなければ、私は今ここにいなかったのかもしれない。
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