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【怖い話|短編】雑司ヶ谷の鬼

雑司ヶ谷の鬼
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雑司ヶ谷の鬼

東京、雑司ヶ谷。鬼子母神堂の境内は、今日も子授けや安産を願う人々で賑わっていた。境内には、色とりどりの千羽鶴や絵馬が奉納され、祈りの声が絶え間なく響いている。しかし、古くからの住民たちは、ある噂をひそひそと囁き合っていた。

囁かれる噂

「最近、鬼子母神堂に祈願に来た子供が、行方不明になる事件が続いているらしい」

ある雨の夜、鬼子母神堂に祈願に来た若い夫婦の子供が、忽然と姿を消した。両親は必死に子供を探したが、どこにも見当たらない。警察も捜査に乗り出したが、手掛かりは何もなかった。

数日後、別の家族の子供も鬼子母神堂付近で行方不明になった。そしてまた数日後、さらに別の子供が……。

消えた子供たち

住民たちは恐怖に震え、鬼子母神堂に近づくことすら恐れた。ある者は、鬼子母神が子供をさらっているのだと言い、ある者は、鬼子母神の怒りに触れた者が罰を受けているのだと言った。鬼子母神の像は、憤怒の形相で子供を抱えているように見え、その噂に拍車をかけた。

そんな中、一人の老婦人が立ち上がった。老婦人は、長年鬼子母神堂を守り続けてきた巫女、静子だった。静子は、白い着物を身にまとい、髪を後ろで一つに束ねている。その顔には、深い皺が刻まれているが、目は澄み渡り、慈愛に満ちている。

「鬼子母神様は、決して子供を傷つけるようなことはしません。鬼子母神様は、子供たちを守る神様です」

巫女の真実

静子は、鬼子母神の真実を語り始めた。

昔、鬼子母神はハリティーという名の恐ろしい鬼であり、多くの子どもをさらって食べていた。しかし、最愛の我が子を失った悲しみと、仏陀の教えによって改心し、子供たちを守る神となったのだ。

鬼子母神の改心

「鬼子母神様は、子供たちが迷子にならないように、悪い者から守るために、一時的に子供たちを預かっているのです。そして、必ず無事に親の元へ返すのです」

静子の言葉は、人々の心に深く響いた。そして、鬼子母神への信仰はさらに深まった。人々は、鬼子母神の像を恐ろしい鬼ではなく、子供たちを慈しむ母の姿として見るようになった。

数日後、行方不明になっていた子供たちが、次々と親の元へ戻ってきた。子供たちは、鬼子母神に優しく抱かれ、温かいザクロを食べさせてもらったと話した。ザクロは、鬼子母神が子供たちを養うために与えたとされる、生命力あふれる果実だ。

住民たちは、鬼子母神の慈悲深さに感謝し、鬼子母神堂に祈りを捧げた。そして、鬼子母神堂は、再び子供たちの笑顔で溢れるようになった。境内には、子供たちが遊ぶ声が響き、風にはためく千羽鶴が、平和な日々を象徴しているようだった。

子供たちの帰還と鬼子母神の愛

その後、鬼子母神堂には、迷子になった子供を預かる「迷子札」が置かれるようになった。札には、鬼子母神の姿と、「必ずお返しします」という言葉が刻まれている。そして、鬼子母神は、子供たちを見守る優しい神として、人々に愛され続けている。

雑司ヶ谷の鬼子母神堂は、今日も多くの人々が訪れる。そこには、鬼子母神への信仰と、子供たちへの深い愛情が、今も脈々と受け継がれている。

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