消灯後の闇
深夜2時、看護師の佐藤さんは、人気のない病棟を巡回していました。薄暗い廊下には、患者の寝息と点滴の音だけが響いています。
佐藤さんは、一番奥の病室の前に来ると、ふと立ち止まりました。カーテンの隙間から、青白い光が漏れているのが見えたのです。
「おかしいな、この部屋は空室のはずなのに…」
佐藤さんは恐る恐るカーテンを開けました。すると、ベッドの上には、白いシーツを被った人影が横たわっていました。
「あの、どちら様でしょうか?」
佐藤さんが声をかけると、人影はゆっくりと起き上がり、シーツを脱ぎ捨てました。それは、顔面蒼白で、眼窩が空洞になった女でした。女はニヤリと笑うと、佐藤さんに手を伸ばしてきました。
「ひっ!」
佐藤さんは悲鳴を上げ、病室を飛び出しました。廊下を全速力で走り抜け、ナースステーションに駆け込みました。
「た、大変です!幽霊が!」
佐藤さんの叫び声に、他の看護師たちが集まってきました。しかし、誰も佐藤さんの話を信じようとしません。
「佐藤さん、疲れてるんじゃないですか?少し休んだらどうですか?」
先輩看護師が心配そうに声をかけましたが、佐藤さんは首を横に振りました。
「違います!本当に幽霊を見たんです!」
佐藤さんは必死に訴えましたが、誰も耳を貸してくれません。
諦めかけたその時、ナースステーションの電気が突然消えました。非常灯が点灯し、薄暗い光が部屋を照らします。
次の瞬間、佐藤さんの背後から、冷たい手が伸びてきました。
「キャーッ!」
佐藤さんは再び悲鳴を上げ、その場に倒れ込みました。他の看護師たちも恐怖で凍りつき、身動きが取れません。
すると、非常灯の光がちらつき始め、天井から女の幽霊がゆっくりと降りてきました。女は空洞の目で看護師たちを見つめ、ニヤリと笑いました。
「やっと…会えたね…」
女の言葉が終わると同時に、非常灯が消え、病棟は完全な闇に包まれました。看護師たちの悲鳴が響き渡り、その声は次第に小さくなっていきました。
翌朝、病棟の電気が復旧した時には、看護師たちの姿はどこにもありませんでした。ただ、床には、血の涙を流した女の幽霊が、満足そうに微笑んでいたのです。
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