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【怖い話】暗流 Part2

暗流
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暗流 Part2

対岸の影

数日後、どうしても気になって仕方がなかった私は、再び川辺へ向かう決意をしました。

祖父母の「対岸に行くな」という言葉が頭をよぎりましたが、それでもあの男の子のことが頭から離れなかったのです。竹藪を抜け、いつものように川のほとりに立つと、川は相変わらず穏やかに流れていました。水面には夕陽が映り込み、赤く染まった波紋が広がっていました。

私は思い切って、川を渡ることにしました。

水は冷たく、足元の小石が不気味なほど滑りやすく感じられます。浅瀬を進みながら、ふと背後に何かの気配を感じましたが、振り返っても誰もいません。ただ、竹藪のざわめきと川のせせらぎだけが耳に残ります。

対岸に辿り着いたとき、私は冷たい風が頬を撫でるのを感じ、鳥肌が立ちました。

対岸は荒れた草むらに覆われていて、普段人が訪れるような場所ではありません。

その中にぽつんと佇む古びた祠を見つけました。苔むした木製の祠で、今にも崩れそうなほど古いものでしたが、なぜかその場にだけ時間が止まったような静けさがありました。好奇心に駆られて祠の中を覗き込むと、中にはいくつかの木製の人形が並べられていました。

その人形の一つが、あの川辺で見た男の子に似ていることに気が付きました。短髪で無表情な顔立ちが、まるで私を見つめ返しているかのようです。息を飲み、手を伸ばそうとしたその瞬間、背後から急に冷たい風が吹き抜け、祠の扉が音を立てて閉まりました。驚いて振り返ると、そこにはあの男の子が立っていました。彼は白いシャツを風になびかせながら、無表情のままで私をじっと見つめています。

私は恐怖で声が出ませんでした。彼の顔は夢の中で見た時と同じ、まるで人形のように感情が読み取れない無機質な表情でした。足が震え、逃げ出そうとしても動けず、体がその場に縛り付けられたようでした。男の子は一歩、また一歩とゆっくり近づいてきます。私の視線は彼の足元に向き、そこで見たものに凍りつきました。

彼の足元は、川の水でびしょ濡れになっていたのです。

まるで水の中からそのまま現れたかのように、滴り落ちる水滴が土に吸い込まれていきます。その瞬間、頭の中に言葉が浮かびました。「逃げないと…」。何かが私に警告を与えているかのようでした。私は振り絞るようにして体を動かし、祠から離れて駆け出しました。

背後で男の子の足音が聞こえる気がしました。振り返る勇気もなく、ただ必死に川を渡り、祖父母の家へと走り続けました。

川を越えた瞬間、耳元で冷たい風が吹き抜け、男の子の気配は消えましたが、胸の鼓動は止まりませんでした。

家に戻ると、祖母が驚いた顔で私を迎えました。

「どうしたんだい、そんなに息を切らして…」と心配そうに声をかけてきます。私は息を整えながら、祠のことと男の子が現れたことを話しました。祖母の顔が次第に険しくなり、静かに私を抱きしめてこう言いました。「あの川の向こうには、やっぱり何かがいるんだね…」

その夜、祖父母は厳かに祠の話を始めました。

昔、その川で子どもが溺れて亡くなったという噂があり、その子どもを慰めるために祠が建てられたのだと。そして、祠の人形は溺れた子どもたちの魂を沈めるためのものだと聞かされました。私は震え上がり、二度とあの川には近づかないと誓いました。

それから何年も経った今でも、あの対岸の風景を忘れることはできません。

祠の前に立っていた無表情な男の子と、足元から滴り落ちる水滴の光景は、まるで昨日のことのように鮮明に思い出されます。そして、あの川を訪れる夢をたまに見るのです。夢の中では、男の子が川の中から私を見つめ続けています。

その視線に耐えきれず目を覚ますたびに、今でも冷たい汗が背中を流れます。

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