猿島の呪い
東京湾に浮かぶ自然豊かな無人島、猿島。夏には海水浴客で賑わうこの島には、美しい自然とは裏腹に、恐ろしい過去が刻まれている。
明治時代、猿島は東京湾防衛の要衝として、多くの兵士が駐屯していた。しかし、過酷な環境や厳しい訓練によって、多くの兵士が命を落としたという。彼らの無念が怨念となり、島に悪霊として留まっていると噂される。
特に、島の北側にある砲台跡は、最も呪われている場所とされている。夜になると、兵士たちの幽霊が現れ、うめき声や叫び声が聞こえるという。また、トンネル内では、不気味な影や光が度々目撃されており、心霊写真が撮れたという話も後を絶たない。
ある蒸し暑い夏の夜、心霊スポット巡りを趣味とする大学生グループ5人が、肝試しとして猿島を訪れた。彼らは、噂の真偽を確かめるべく、夜の砲台跡へと向かった。
懐中電灯の明かりを頼りに、薄暗いトンネルを進む。レンガ造りの壁には、苔が生え、湿った空気が鼻をつく。時折、コウモリの羽音が不気味な静寂を破り、彼らの心臓を早鐘のように打たせる。
トンネルの奥に進むにつれ、生暖かい風が吹き始め、湿った土の匂いが一層強くなる。やがて、視界が開け、巨大な砲台跡が姿を現した。星明かりに照らされたレンガの壁は、まるで異世界の遺跡のように不気味な威圧感を放っている。
「おい、誰かいるのか?」
リーダー格の勇太が声を張り上げたが、返ってくるのは自分の声のこだまだけだ。すると、突然、風が吹き荒れ、懐中電灯の明かりが消えた。辺りは漆黒の闇に包まれ、恐怖感が彼らを襲う。
「キャー!」
女子メンバーの理恵が叫び声を上げた。次の瞬間、どこからともなく、うめき声や叫び声が聞こえ始めた。それは、まるで地獄の底から響いてくるような、恐ろしい声だった。
「逃げろ!」
勇太は叫び、闇の中を走り出した。他のメンバーもパニックになり、後を追う。しかし、トンネル内は迷路のように入り組んでおり、出口が見つからない。
「助けてくれー!」
彼らの叫び声は虚しく闇に吸い込まれていった。
翌朝、島を訪れた釣り人が、砲台跡の近くで大学生たちの遺体を発見した。彼らの顔は恐怖に歪み、まるで何か恐ろしいものを見たようだった。遺体の一部は損傷しており、獣に襲われたようにも見えたが、現場には動物の足跡は残されていなかった。
猿島の呪われた砲台跡の噂は、この事件以来、さらに広まった。そして、あの夜、大学生たちに何が起こったのか、真実を知る者はいない。
現在、猿島は日中は観光地として賑わっているが、夜になると無人島となり、不気味な静寂に包まれる。そして、今もなお、砲台跡には兵士たちの怨念が渦巻き、訪れる者を恐怖の底に突き落とすという。
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