廃校のピアノ
薄暗い校舎の廊下を、A子は一人、ゆっくりと歩いていた。足元には、埃が積もり、長年人の気配がないことがうかがえる。
ここは、A子がかつて通っていた小学校。数年前に廃校となり、今は誰もいないはずだった。
懐かしさと同時に、不安な気持ちも募る。A子は、心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、奥へと進んでいった。
体育館の扉を開けると、そこには一台のグランドピアノが置かれていた。埃をかぶったピアノは、まるで長い眠りから覚めたように静かに佇んでいた。
A子は、ピアノに近づき、そっと鍵盤に触れた。すると、かすかに音が鳴った。
…懐かしい音色…
A子は、思わず目を閉じた。子供の頃、音楽室でピアノを弾いていた時の記憶が蘇る。
…あの日…
A子は、突然、背後から声をかけられた。振り返ると、そこにはかつての担任だったC先生が立っていた。
「A子、久しぶりだね。」
C先生は、優しく微笑んだ。しかし、その笑顔はどこか不自然だった。
「先生…?」
A子は、驚きと不安で声も出なかった。
「…一緒に…ピアノを弾きましょう…」
C先生は、A子をピアノの前に誘導した。A子は、先生の言葉に逆らえず、ピアノの前に座った。
C先生は、ピアノの椅子に座り、静かに鍵盤に触れた。すると、美しいメロディーが流れ始めた。
…あの曲…
A子は、その曲に聞き覚えがあった。それは、A子が子供の頃、大好きだった曲だった。
…母がよく歌ってくれた…
A子は、母の歌声を思い出した。温かい声…優しい笑顔…
…もう…会えない…
A子は、涙を流しながら、ピアノを弾いた。C先生との二重奏…美しい音色…
…しかし…
C先生の演奏は、徐々に狂気に満ちていった。不協和音…不気味な旋律…
…恐ろしい…
A子は、恐怖で体が震えた。C先生の顔は、歪み、悪魔のような形相になっていた。
…逃げなきゃ…
A子は、ピアノから立ち上がろうとした。しかし、体が動かない。まるで、椅子に縛り付けられているようだった。
…助けて…
A子は、絶望の中で叫んだ。しかし、誰も助けに来てくれない。
…永遠に…
C先生の演奏は、止むことなく続いた。A子は、恐怖と絶望の渦に飲み込まれていった。
…意識が…遠のく…
A子が目覚めた時、そこは自分の部屋だった。夢だったのか…現実だったのか…
…わからない…
A子は、ただ恐怖と不安で震えるしかなかった。
…あの曲…あの顔…
A子は、あの夢を忘れることができない。あの廃校…あのピアノ…
…二度と…近づかない…
A子は、心に誓った。
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