変わり始めた家族 前編
高校を卒業してから10年。社会人となり、それぞれの生活を送る中でも、昔からの同級生とは年に数回、集まって飲み会を開くことが恒例になっていた。その年のお盆も例年通り、地元の居酒屋に集まった。仕事や家庭、趣味の話題で賑やかに笑い合い、まるで学生時代に戻ったかのような気軽さが心地よい。
しかし、その日の集まりで、いつもと違うことが一つだけあった。友人Aの様子がおかしかったのだ。席に着いてからも終始無口で、どこか気まずそうな表情を浮かべていた。普段は冗談を飛ばして場を盛り上げる彼が、今日はまったく別人のように静かだった。
「どうした?元気ないな。」軽い調子で声をかけると、Aは一瞬ためらい、俯いたまま小さく首を振った。だが、その直後、深い息を吐いてからぽつりとつぶやいた。「最近、家族がちょっと変なんだ…。」不意に落とされたその言葉は、あまりにも異様で、一瞬、みんなが彼の顔を見た。
「変ってどういうことだ?」隣にいた友人が、慎重に問いかける。Aはしばらく黙り込んでいたが、やがて口を開いた。「最初は些細なことだったんだ。妻が急に意味不明なことを言い出したり、子供たちが壁の一点をじっと見つめていたり…最初は疲れてるだけだと思った。でも、最近はもっとおかしくて…まるで家族全員が、誰か別の人間みたいに感じるんだ。」
その場に沈黙が広がった。普段は明るいAが、ここまで深刻な表情を見せるのは初めてだった。私たちはAの話にどう反応すべきか、困惑していた。確かに冗談にするには不気味すぎる内容だったが、それ以上追及するのもためらわれた。
Aが家族について話すたびに、言葉の端々から何か得体の知れない不安が伝わってきた。「妻が突然、夜中に笑い出すことがあったり、子供が一人で誰かと話しているように見える。だが、周りには誰もいないんだ…。」声を震わせながら、Aはそう続けた。
その後もAは無言でグラスを傾けるだけで、話が進むことはなかった。気まずい沈黙を何度も挟みながらも、飲み会は予定通り進行し、私たちは解散することにした。しかし、帰り道でAの言葉が私の頭から離れなかった。特に「家族が別人のようだ」という言葉が、私の胸に刺さり続けていた。
その夜、私は布団に入っても眠れず、Aの話を何度も思い返していた。明るい性格の彼が、あんなに暗く、絶望的な表情を見せるなんて考えられなかった。Aの家族に何が起きているのか――気になって仕方がなかった。
翌朝、私は思い切って彼に連絡を取ることにした。気分転換が必要かもしれないと考え、キャンプに誘うことを思いついた。夏休みを利用して、家族ぐるみでリフレッシュするのはどうだろうかと提案してみたのだ。
すると、彼からの返事は意外なほど早く、そして予想外に肯定的だった。「行くよ。」その短い返事の後、私はさらに不安を感じた。彼は何かに追い詰められているようだった。
そして、このキャンプが何かの転機になるのではないか、そんな漠然とした予感が心の中に広がっていった。
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