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【怖い話|短編】古いアパートに潜む影

影の住人

【洒落怖】古いアパートに潜む影

冬のある日、私は古いアパートに引っ越しました。このアパートは安価で、一人暮らしを始めるにはちょうど良い場所だと思っていました。新しい生活のスタートに胸を躍らせ、自分だけの空間を持つことへの期待で心は高鳴りっぱなし。この引っ越しは希望に満ちた一歩そのものでした。

安価に借りれたアパート

近隣との良好な関係も大切にしたいと思い、すぐに隣人たちに挨拶に回ったのですが…。

隣の部屋の住人から聞いた話によると、この建物には忌まわしい過去があるということでした。昔、ここに住んでいた誰かが行方不明になり、以来、奇妙な出来事が起こるようになったそうです。

最初は「まさか」と半信半疑でしたが、家賃がこの場所の割に安いことを思い出し、不安が募り始めました。

その夜、引っ越しで疲れ切っていた私は、早めにベッドに潜り込みました。しかし、夜中に突然、部屋のどこかで物音がすることで目が覚めました。最初は、これが隣室からの音ではないかと思いました。

だけど、よく耳を澄ませると、その足音は間違いなく私の部屋の中で響いているのです。恐怖で固まり、思わず布団を頭からすっぽりと被ってしまいました。音はいずれ消えましたが、その夜、私は再び眠ることができませんでした。

恐怖に震える主人公

翌日、私は隣人に夜中の奇妙な出来事を話しました。

隣人は心配そうに「それは影の住人の仕業だよ」と教えてくれました。このアパートには見えない住人がおり、新しく引っ越してきた人にいたずらをするんだそうです。夜の出来事を直接体験した私は、隣人の話を疑う余地もなく受け入れました。安い家賃には事故物件だという理由があったのかと、納得せざるを得ません。

その後も、夜ごとに物が自ら動いたり、空中から何かに触れられる感覚に襲われたりと、不可解な現象は続きました。

一番恐ろしかったのは、ある夜、部屋の隅にふと目を向けたとき、壁に人の影がゆっくりと浮かび上がっているのを見た時のことです。その影は、壁の中から私を直視しているかのような、不気味な視線をおくっていました。影は輪郭を持ち、まるで生きている人間のように動いているように見え、部屋には他に誰もいないはずなのに、その影ははっきりと私を指差し、悪意をこちら向けながら動き続けているのです。

影は動きながら悪意をこちらに向けてくる

静寂に包まれた部屋で、その影だけが異様に映え、私の心臓の鼓動を速めました。

私はその場から目を離すことができず、しかし同時にその影に近づく勇気もありません。壁の影が私に何を伝えようとしているのか、それとも単なる私の幻想なのか、理解することはできませんでした。しかし、その影が浮かび上がった瞬間から、私はこのアパートでの生活を続けることは無理だと感じました。

部屋の中は静かで、唯一聞こえるのは私の荒い呼吸と心臓の鼓動だけでした。その夜は一睡もできず、朝が来るのをただひたすら待ちました。そして、朝日が窓から差し込むと同時に、私はこのアパートを出る準備を始めたのです。

荷物をまとめ、引っ越しの準備があらかた終わったのは、もう外がほとんど日が沈み暗闇に飲み込まれそうな頃でした。「今日だけは仕方ないか」と、勇気を出し1泊する決心をすると途端眠気が襲ってきました。前日ほとんど寝れいなかったのも原因と思います。

しかし深夜、目が覚めてしまいました。「しまったなぁ」と私は思うと同時に、部屋の隅に暗い人影が立っていることに気がづきました。体が強張り身動きが取れなくなり、息も上手く吸えない…。ですが、その影はゆっくりと私に近づき、耳元で「お別れだ」と囁いたのです。その声は冷たく、しかし同時に悲しみを帯びていました。翌日、私は何も言わずにその場所を去りました。

それから10年の時が経ち、私はたまたまこの町に来る用事があり訪れたのですが、いまだにあのアパートは存在していました。住人もいるようです。おそらく影の住人も。

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