【洒落怖】九州山奥で遭難した話
かつてないほどの寒波が九州の山奥を襲い、私たちはその中で道に迷ってしまった。
太陽が沈み、辺りが一層の闇に包まれた時、古びた山小屋を見つけることができたのは幸運だった。その小屋は、まるで私たちを待っていたかのように、そこにぽつんと佇んでいた。
友人たちと私は、小屋の中で夜を過ごすことに決め、急いで暖炉に火をつけた。
寒さが和らぎ、一息ついたその時、友人の一人が不気味な話を始めた。「この山、昔から幽霊が出るって言われているんだ。特にこの小屋のあたりは、天狗がよく現れるらしいよ」。
話を聞きながら、外で何かが窓を叩く音がした。風の仕業に違いないと思いつつも、心の奥底では不安が渦巻いていた。
夜が深まるにつれ、外の風の音はより一層強くなり、小屋全体が軋むような音を立てた。友人たちは次第に眠りについていったが、私だけは目を閉じることができず、暖炉の火をじっと見つめていた。
すると、再び外から「おいで… おいで…」と呼ぶ声が聞こえてきた。
その声は幽玄で、まるで遠く古の時代から私を呼んでいるようだった。
私は恐怖と好奇心の間で揺れ動きながら、小屋の扉に近づいた。
そして、思い切って扉を開けると、そこには赤い顔に長い鼻を持つ天狗が立っていた。
しかし、その表情には恐ろしさよりも悲しみが浮かんでいた。「迷い人よ、この山を恐れることはない。われわれは守りし者なり」と天狗は静かに語りかけた。
天狗は私たちが安全に山を下りるための道を示してくれ、夜が明けると共に姿を消した。その体験以来、私は山に対して畏怖するだけでなく、尊敬の念を抱くようになった。
私たちが遭遇したのは単なる怖い話ではなく、自然との調和と尊重を教えてくれる貴重な体験だったのだ。
翌朝、私たちは天狗が示した道をたどりながら山を下り、その不思議な体験を語り合った。私たちが目撃した天狗は、私たちに恐怖を植え付けるためではなく、山の深い愛と守りを伝えるために現れたのだと確信している。
この出来事は、私たちにとってただの冒険ではなく、人生において大切な教訓を与えてくれた。
自然の中には理解できない多くの力が働いており、それらを尊重し、調和の中で生きることの重要性を私たちに教えてくれたのだ。
コメント