【洒落怖】とある心霊番組にて
僕はかつて、心霊特集番組の制作に携わっていた。
その仕事は、僕にとって単なる興味以上のものだった。心霊現象に対する好奇心と、それを世に広める使命感を持っていたからだ。しかし、ある取材が全てを変えた。それは、地方の廃病院での撮影だった。
噂によると、そこは多くの無念の霊が彷徨う場所で、今まで足を踏み入れた者は誰も無事では帰れなかったという。
当日、僕たちはカメラと録音機材を持ち、廃病院へと向かった。
建物は朽ち果て、どこからともなく冷たい風が吹き抜ける。僕たちは心霊現象を捉えるために、夜通しでの撮影を開始した。最初の数時間は何も起きなかったが、深夜になるにつれ、奇妙な現象が頻発し始めた。
ドアが勝手に開閉し、不可解な声が録音され、そして、一番衝撃的だったのは、カメラに映った一つの影だった。それは、病院の廊下をさまよう、首のない人影だった。
その影を目にした瞬間、僕たちの中で何かが変わった。
撮影は一気に重苦しい雰囲気に包まれ、チームの一人がパニックに陥った。彼は、何かに追われるように叫びながら病院から逃げ出した。僕たちは彼を追いかけたが、その時、建物全体が激しい揺れに見舞われ、僕たちは地面に倒れ込んだ。
目を開けた瞬間、僕たちは見覚えのない森の中にいた。
空は灰色に覆われ、周りは霧でぼんやりとしていた。カメラや機材はどこにも見当たらず、ただ僕たちだけがそこにいた。不安と恐怖で心臓が早鐘を打ち、互いに何が起きたのか理解しようとしたが、答えは得られなかった。
僕たちは、何とか元の世界に戻ろうと、森を抜けることに決めた。しかし、どの方向へ進んでも、景色は変わらず、霧はさらに濃くなるばかりだった。足元は不安定で、何度も転びそうになりながら、僕たちは進み続けた。
恐怖が頂点に達した時、遠くで微かな光が見えた。
それは、希望の光のように思え、僕たちはその光に向かって必死に走り出した。光が強くなるにつれ、霧は薄れ、やがて僕たちは小さな祠の前にたどり着いた。祠には、古びたお札が貼られており、地元の守り神を祀っているようだった。
僕たちは、無意識のうちにその祠に手を合わせ、助けを求めた。
その瞬間、強い風が吹き抜け、僕たちを包み込むようにして、霧が晴れていった。目の前が明るくなり、見覚えのある風景が現れた。僕たちは、まるで時間を超えたかのように、廃病院の近くの道路に立っていたのだ。
その後、僕たちは無言で家路についた。
誰もがその体験の意味を理解しようとしたが、答えは見つからなかった。ただ一つ確かなことは、僕たちが経験した恐怖が、この世界とは異なる何かによって引き起こされたということだ。そして、あの祠がなければ、僕たちは二度とこの世界に戻ることはなかったかもしれない。
それ以来、僕たちは超自然の存在と、この世界の見えない力を決して侮ることはなくなった。
番組はその後、放送されることはなかった。
撮影された映像も、不可解な理由で全て消去されてしまったのだ。僕はその事件以来、心霊番組の制作を辞めた。しかし、あの夜に見たもの、感じた恐怖は、僕の中で生き続けている。
それは、テレビの画面の向こう側にある、語られなかった真実の一片だった。
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