まとめトピックスでは、現在読みたいお話しのジャンルを募集しております。ぜひともお問合せよりご連絡ください。こちらから投稿

【怖い話|短編】鏡の向こうの彼女

鏡の中の彼女
目次

鏡の向こうの彼女

薄暗い洗面台の鏡に、男は自分の顔を映していた。朝一番の歯磨きを終えた彼は、洗面台に置かれたタオルで口元を拭きながら、鏡の中の自分と目を合わせた。いつもと変わらない自分の顔。しかし、その日の彼は、何か異様な違和感を感じていた。鏡に映る自分の背後に、微かな影が揺れているような気がしたのだ。

鏡の前で顔を洗う男性

目を凝らして影を見つめる。それは、長い黒髪をなびかせ、白いワンピースを纏った女性の姿だった。ぼんやりとしか見えないその顔は、どこか懐かしさを感じさせるような優しい笑顔を浮かべている。男は驚きと恐怖で言葉を失った。鏡に映るはずのない女性。一体、彼女は誰なのか?

その日以来、男は鏡を見るのが怖くなった。しかし、同時に、鏡に映る女性の存在が気になり、毎日洗面台で彼女の姿を眺めるようになった。女性はいつも同じ場所に立って、同じ笑顔を浮かべている。男が話しかけても、何を言っているのか聞き取れない。それでも、男は彼女と会話しているような気分になり、次第に彼女に親しみを感じるようになっていく。

鏡の中に現れた彼女

ある日、男は意を決して女性に名前を尋ねた。「あなた、名前は?」

すると、女性は微笑みながら答えた。「あなたと同じ名前よ。」

「私と同じ名前?」男は驚きを隠せない。

「そうよ。あなたと同じ名前の、あなたと同じ顔の、あなたと同じ人よ。」女性の言葉に、男は恐怖を感じ、鏡から目をそらした。しかし、背後から声が聞こえる。「あなたは、私のものよ。」振り返ると、そこにはもう女性の姿はなかった。

鏡の向こうの女性との出会いで男の生活は変わった。鏡を見るたびあの日の恐怖が蘇る。彼は、鏡の向こうの女性が、いつかまた自分を呼びに来るのではないかと恐れていた。男は女性から逃れるために、衝動的に鏡を割ってしまった。しかし、鏡を割っても女性の恐怖は消えない。男は鏡の向こうの女性が何者なのか、これからどうすればいいのか、答えを見つけることができずにいた。

割れた鏡

しかし、鏡に怯える日々はすぐに終わりを迎えた。

ある日、男は職場のオフィスビルから外を眺めていた。すると、隣のビルの窓際に、見覚えのある女性の姿が映っていた。鏡の中の女、あの女性だ。男は目を疑った。まさか、鏡の世界から現実に出てきたのか?女性は男に気づいたのか、こちらをじっと見つめている。男は恐怖を感じながらも、目を離すことができなかった。

その日から、男は女性に追い回されるようになる。街中で、電車の中で、自宅の近くで。女性はいつも、男の視界に入る場所に現れる。男は次第に追い詰められていく。このままでは、自分が狂ってしまうのではないかという恐怖に襲われる。

男は藁にもすがる思いで先祖に助けを求めた。そしてお守りを大量に揃えた。それは気休めだったかもしれない。しかし、思いの外、途端彼女を見ることはなくなった。男は安堵した。あれだけ毎日脅かされていただけに、姿をみなくなるだけでこんなにも平穏が訪れるとは思っていなかった。絶望的な恐怖から些細なことに幸せを感じる様になった。小さなことにも感謝するようになった。

男は彼女との出会いで変わった。仕事にも努力するようになった。諦めがちで努力が苦手だった性格は一変し、会社での評価も上がり来月から昇進も決まり人生が良い方向に向いていた。男も自信もつき、周りからの信頼も厚くなっていった。

努力の意味を知った男性

ある日、仕事を早く切り上げ、一人暮らしのアパートでくつろいでいた。テレビを見ながら、ビールをぐびぐびと流し込む。すると、突然背後から声をかけられた。

「久しぶりね。」

ゆっくり振り返ると、そこには、あの鏡の向こうの女性が立っていた。

Feature

特集カテゴリー

鏡の中の彼女

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次