忘れられた時計の音 – 心霊体験
深夜、静まり返った古い屋敷。僕はこの家を購入したばかりだった。歴史を感じる重厚な雰囲気に惹かれ、都市の喧騒から離れたかったのだ。
引っ越しの疲れがピークに達したある夜、深い眠りに落ちていた。突然、耳障りな時計のカチカチという音で目を覚ました。この家には時計などないはずだが…。
布団から這い出し、音のする方向へと足を進める。どうやら、壁の奥から聞こえるようだ。不気味な雰囲気に包まれながらも、好奇心が僕を突き動かした。
壁には何もない。しかし、音は明らかにここから聞こえる。近づくにつれ、音は
さらに大きく、はっきりとしてきた。冷たい空気が肌を撫で、背筋が凍るような感覚に襲われる。
「カチカチ、カチカチ…」
壁を叩くと、妙に空洞の響きがあった。そこで、僕は壁紙を剥がす決心をした。すると、見えないはずの古い時計が、そこに埋め込まれているのが見えた。その時計は、まるで何かを告げるかのように、刻々と時間を刻んでいた。
時計の針は、深夜12時を指している。しかし、時計は動いていない。それなのに、この音は一体…。
恐怖で足が竦む中、背後から女性の声が聞こえた。「時間よ…」振り返ると、そこには透明な人影が。彼女はかつてこの家に住んでいた女性の霊だった。
彼女は語り始めた。この時計は彼女の夫が作ったもので、彼女の死後、時計も止まったという。しかし、彼女の魂はこの時計と共にこの家に留まり続けていた。
「私の時間は、ここで止まったのです。」
その言葉を最後に、彼女の姿は消え、時計の音も止んだ。朝が来て、僕はその時計を大切に保管することにした。彼女の魂が安らぐように。
そして、その夜から、僕は二度とその時計の音を聞くことはなかった。しかし、時々、夜中になると彼女の声が聞こえてくるような気がする。彼女が過ごした時間、彼女の物語は、この古い屋敷の中に永遠に生き続ける。
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