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【怖い話|短編】ベッドの左側

一人暮らしを始めてもうすぐ一年になる。

特別変わったこともなく、仕事とコンビニ弁当とYouTubeを往復するだけの生活だ。

部屋はワンルーム、築十年くらい。

狭いけど、家具の位置も慣れてきて居心地は悪くない。

夜、寝る前にベッドの右側の棚にリモコンを置くのが習慣になっている。

これだけは毎晩欠かさない。

なぜかというと、寝相が悪くて、左側に置くと起きた時にリモコンが床に落ちているからだ。

だから、右側に置く。

それが“いつも通り”。

──だったはずなのに、ある夜ふと気づいた。

リモコンが、左側の棚にある。

「あれ?」

寝ぼけたのかと思いながらも、手を伸ばして右側を探す。

やっぱりない。

寝ぼけて置き間違えたんだろうと思って、そのまま寝た。

次の朝、リモコンは右側に戻っていた。

気味が悪かったけど、まあいいか、と思った。

でも、その翌日も、やっぱり左側にあった。

そして朝になると、右側に戻っている。

……三日目の夜。

わざとリモコンの位置をスマホで撮っておいた。

証拠を残したかった。

夜中、3時ごろに目が覚めた。

何か、乾いた“カサッ”という音がして。

部屋は真っ暗。

エアコンの風も止まっている。

スマホの画面をつけると、時計は3:12。

なぜかわからないが、視線が左の棚へ向いた。

暗がりの中で、黒いリモコンがぼんやり見える。

……間違いなく、そこにあった。

布団の中で息を殺したまま、しばらく動けなかった。

目を閉じたら終わりな気がして、天井を見つめ続けた。

気づいたら朝だった。

寝ぼけた頭でスマホを見たら、昨夜撮った写真が勝手に削除されていた。

代わりに「03:12」という名前の動画がひとつ残っていた。

再生した。

暗い部屋。

自分が寝ているベッドが映っている。

カメラは低い位置から、ベッドの左側を向いている。

……何かが動いた。

画面の端、ベッドの下から“手”が出てきて、ゆっくりとリモコンを棚の上に置いた。

その“手”は、俺の腕より細く、濡れているように光っていた。

そのままカメラに向かって――**「しーっ」**と、人差し指を立てた。

動画はそこで終わっていた。

全身の血が引く感覚のまま、すぐ警察を呼んだ。

でも、動画は見せる前に勝手に消えていて、フォルダも空っぽだった。

警察は「夢かもしれませんね」と言った。

……あれから2週間。

夜になると、左側からリモコンを置く“音”がする。

カサッ、トン。

まるで置いたあと、軽く触れていくような音。

でも俺はもう、右側には置かない。

左に置くようにしたんだ。

そうしたら――あの音は、しなくなった。

ただ、時々、目を閉じる直前に思う。

あの“手”はまだ、ベッドの下で待ってるんじゃないかって。

俺が間違えて、右側に置くのを。

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