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変わり始めた家族 中編
翌週末、私は家族とともにキャンプ場へ向かった。自然に囲まれた静かな場所で、日常の喧騒から離れるには最高の環境だ。
心のどこかで、Aとその家族もここで少しはリフレッシュできるのではないか、そんな期待があった。
午後過ぎ、Aの車がようやく到着した。
だが、その瞬間から胸の奥に嫌な感覚が広がる。車から降りてきたAの姿は疲れ果て、Aの妻は無表情のままぼんやりとしている。子供たちもまるで操り人形のように父親に従うだけで、その瞳には光がなかった。
キャンプ場の静けさが一層その違和感を際立たせる。鳥のさえずりさえ遠くに聞こえるだけで、私たちの間にはほとんど会話がなかった。焚き火の準備をしながら、私はどうしても彼の家族を気にしてしまう。
Aの妻が時折、何かを見ているかのように遠くの木々に目を向けるのだが、そこには何もない。だが、そのたびに私の背筋に寒気が走った。
夕食の後、焚き火を囲んでいたが、空気は重く張り詰めていた。
突然、子供たちが黙って立ち上がり、火のそばに近づいてきた。その動きがあまりにも機械的で、私は思わず声をかけた。「大丈夫か?」だが、彼らは一言も返さず、ただ火をじっと見つめていた。その眼差しには生気がなく、まるで何か別の存在が彼らの中にいるかのようだった。
その夜、私たちはテントに戻ることにしたが、心の中に押し寄せる不安は消えなかった。ふと目が覚めた時、外からかすかな声が聞こえた。低く、何かを囁くような声。テントの外を覗き込むと、薄暗い月明かりの下に黒い影が動いているのが見えた。
瞬間、心臓が跳ね上がり、全身が凍りつく。私は目を凝らして影を追ったが、それは森の奥へとゆっくり消えていった。だが、確かにそこに「何か」がいた。
恐怖に震えながらテントに戻ろうとした瞬間、Aの家族のテントから奇妙な音が聞こえてきた。何かがぶつかる音、そして、その後に続くかすかな笑い声。それは子供たちのものではなく、もっと低く、気味の悪い大人の声だった。
朝、私はすぐにAに話をした。「昨夜、何か聞こえなかったか?」だが、Aは疲れた表情で首を振るばかりだった。その横で、妻と子供たちはまたしても無表情で朝食をとっている。
その姿はまるで生きていない人形のようで、私の中に広がる恐怖は消えるどころか、さらに強くなっていった。
このキャンプは、Aの家族を救うためのものだと思っていた。だが、今は逆に彼らが何かをここに連れてきたのではないか、そんな恐ろしい予感が頭をよぎる。
何かが、すぐそばまで来ている――。
後編へつづく
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