訪ねてくるモノ
ある夏の日、私は祖母の家を訪れました。
祖母の家は山のふもとにあり、静かで自然豊かな場所でした。日中は鳥の声や風に揺れる木々が心地よく、リラックスできる環境です。
しかし、夜になるとその静けさが妙に耳に残り、不安感を抱かせることもあります。そんな夜に、私は忘れられない出来事を体験しました。
その夜、深夜2時を過ぎた頃、突然目が覚めました。何かが私を起こしたわけではなく、ただ自然に目が覚めたのです。部屋は暗く、窓からの月明かりが薄く差し込んでいるだけでした。
しばらく横になったまま天井を見つめていましたが、ふいに「カタ…カタ…」という音が玄関の方から聞こえてきました。
最初は家が古いせいで、風で何かが揺れているのだろうと思いました。
しかし、その音は次第に大きくなり、「コン…コン…」という、何かがドアを叩く音に変わっていったのです。私は不安になり、完全に目が覚めました。田舎の静かな夜、こんな時間に訪れる者はいません。それに、祖母の家は周囲に家がほとんどなく、近くに誰かがいるはずもないのです。
恐る恐る布団を出て、音のする玄関の方へ向かいました。
足音を立てないよう、慎重に歩を進め、玄関ドアの前に立ちました。音はまだ続いています。「コン…コン…」と規則的にドアが叩かれています。私はドアののぞき穴から外を覗きました。
だが、そこには誰もいません。月明かりに照らされた庭が広がるだけで、動くものの気配は一切感じられませんでした。
心臓が高鳴りながらも、気のせいだと思おうとしました。しかし、再びベッドに戻ろうとしたその瞬間、また「コン…コン…」と、今度はさらに近くから音がしました。
今度はドアのすぐ外です。
玄関のドアに手を伸ばし、慎重に開けてみると、そこには小さな木箱が置かれていました。箱自体は古びていて、長い間誰かが保管していたかのように見えました。心臓がドクドクと鳴る中、私はその箱を開けることを決心しました。
箱の中には、お札が入っていました。それもただのお札ではなく、まるで何かを封じ込めるかのように、古びた紙に不気味な文字がびっしりと書かれていました。
その下には、黒く絡まった髪の毛が無造作に詰め込まれており、その異様な光景に思わず息を飲みました。
そして、その下にあったものを見た瞬間、私は凍りつきました。そこには、私の名前が書かれた紙切れが入っていたのです。
なぜ自分の名前がここに?誰が、何のためにこんなことを?考えれば考えるほど恐怖が膨らみ、足がすくんで動けなくなりました。外にはまだ誰もいないように見えますが、視界の端で木々が揺れる影がちらつき、まるで誰かがこちらを見ているような気がしました。
その後、祖母にこのことを話しましたが、祖母は無言のまま何かを考えているようでした。
翌日、祖母は箱を手に取り、山奥の小さな祠へ持って行きました。何も聞かず、何も言わず、ただ一言「これはここに置いてはいけない」とだけつぶやきました。
それ以来、私は二度と祖母の家に行くことはありませんでしたが、あの夜の出来事と、あの箱の中にあったお札と名前が、今も頭から離れません。
あれは一体何だったのか。
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