6月の雨と傘
6月、梅雨の冷たい雨が降りしきる中、とある小学校では奇妙な噂が広がっていた。午後4時、チャイムが鳴り終わると同時に、赤い傘をさした女が学校のどこかに現れるというのだ。
女はいつも同じ、色褪せた深紅の傘をさし、その下には血のように赤いワンピースが見え隠れする。傘は深く傾けられ、その下から覗くのは、痩せこけた足首と、地面を引きずるように歩く赤いハイヒールだけ。顔は決して見せない。
女はいつも一人で、人気のない校庭の隅や、誰もいない中庭をゆっくりと歩いている。誰かに話しかけられても、無視して通り過ぎるだけ。
ある子は、女に「さようなら」と声をかけてみたが、返ってきたのは風の音と、雨粒が傘に当たる音だけだったという。
しかし、ある日のこと。4年生のC子が、いつものように人気のない中庭を通り抜けようとした時、不意に背後から気配を感じた。振り返ると、そこには赤い傘をさした女が立っていた。女はゆっくりと傘を傾け、C子を見下ろした。傘の影から覗く目は、暗闇のように黒く、底知れぬ恐怖をたたえていた。
C子は恐怖で声も出せず、立ち尽くすことしかできなかった。女はゆっくりとC子に近づき、しゃがれた声で「みつけた」と呟いた。その声は、まるで墓場から響いてくるようだった。C子は必死に逃げようとしたが、女の細い手がC子の腕を掴んだ。その手は氷のように冷たく、C子の体を芯まで凍りつかせた。
C子は助けを求めて叫んだが、声は雨音にかき消され、誰にも届かなかった。C子はそのまま、赤い傘の女に連れ去られてしまった。その後、C子を見た者はいない。
以来、赤い傘の女は現れなくなった。しかし、今でも午後4時になると、人気のない校庭の隅や、誰もいない中庭から、コツコツとハイヒールの音が聞こえるという。
雨の日には、赤い傘がふわりと浮かび上がるのを見たという子もいる。
この学校には、今でも午後4時になると、赤い傘の女が現れるという。もしも女を見かけたら、絶対に近づいてはいけない。そして、決して声をかけてはいけない。
さもないと、あなたも赤い傘の女に「みつけた」と言われてしまうかもしれない。
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