超重力の穴
舞台はフィンランドの奥深い森。そこには、重力が異常に強いと噂される場所「キルピスヤルヴィ」が存在した。地元の人々はそこを「悪魔の穴」と呼び、決して近づこうとはしなかった。
古くからの言い伝えでは、かつてこの地に舞い降りた邪悪な精霊が、永遠の孤独に耐えかねて自らの力を暴走させ、この異常現象を引き起こしたとされている。
若き物理学者、エルッキ・ヴィルタネンは、この超重力現象を解明しようと、幼馴染であり地質学者のアイノ・マケラ、そして最新鋭の重力測定装置を開発した技術者ペッカ・ニーミネンと共に「キルピスヤルヴィ」へと向かった。
エルッキは幼い頃からこの地の伝説を聞かされ、科学者として真実を解き明かすことに強い使命感を抱いていた。
森の奥深くへと進むにつれ、アイノは言い知れぬ不安に襲われた。まるで、何か邪悪なものが彼らを監視しているような気がしたのだ。彼女は古くから伝わるお守りを握りしめ、森の精霊たちに祈りを捧げた。
「キルピスヤルヴィ」に到着すると、エルッキたちは驚愕した。巨大な穴がぽっかりと口を開け、その底が見えないほど深かった。そして、穴の周囲には、まるで吸い込まれるかのように、ねじ曲がった木々が生い茂り、不気味な静寂が辺りを支配していた。
エルッキたちは、ペッカの開発した特殊な耐重力スーツを装着し、穴の底へと降りていった。
重力が徐々に強くなり、彼らの身体は鉛のように重くなったが、スーツのおかげで何とか耐えることができた。しかし、息をするのも困難なほどの圧迫感に、アイノは恐怖に震え始めた。
穴の底にたどり着くと、そこには異様な光景が広がっていた。地面は不気味な紫色の光を放ち、奇妙な形の岩が乱立していた。そして、その中心には、巨大な黒い球体が脈動しながら浮かんでいた。
エルッキが球体に近づくと、突然、球体が光を放ち、エルッキの身体を吸い込み始めた。エルッキは抵抗したが、超重力に逆らうことはできなかった。
「エルッキ!」
アイノは悲痛な叫び声を上げたが、エルッキの姿は黒い球体の中に消えていった。
ペッカはアイノを連れて、必死に穴から脱出した。そして、二度と「キルピスヤルヴィ」に近づくことはなかった。
その後、「キルピスヤルヴィ」は、エルッキの呪いが宿る場所として、人々に恐れられるようになった。地元の人々は、エルッキの魂が邪悪な精霊に囚われ、永遠にこの地を彷徨っていると信じるようになった。そして、今でも、キルピスヤルヴィの上空には、エルッキの悲痛な叫び声が響き渡るという。
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