夜の視線
真夏の夜、大学生の涼子は一人暮らしのアパートで窓を開け、涼んでいた。蒸し暑い空気の中、遠くの街灯がぼんやりと光っている。
ふと、視線を感じた。
暗闇の中、向かいのアパートの窓に人影が見えた。男性だ。目が合った気がした。涼子は気味が悪くなり、カーテンを閉めた。
次の日、大学からの帰り道、涼子は誰かにつけられているような気がした。後ろを振り返ると、昨日の男性が立っていた。涼子は恐怖を感じ、足早にアパートへと戻った。
その夜、涼子は眠れずにいた。カーテンの隙間から外を覗くと、向かいのアパートの窓に男性の姿が見えた。男性は涼子を見つめていた。
耐えきれなくなった涼子は、警察に通報した。警察官が駆けつけ、向かいのアパートへと向かった。しかし、部屋はもぬけの殻だった。
数日後、涼子は大学で同じクラスの友人から声をかけられた。
「涼子、最近様子がおかしいよ。大丈夫?」
涼子は友人に、最近起こった出来事を話した。友人は心配そうに涼子を見つめた後、口を開いた。
「実はね、涼子。向かいのアパート、最近空き家になったんだって。」
涼子は凍りついた。
「え…? でも、私、あそこに住んでる男性を見たのよ…」
友人は首を傾げた。
「そんなはずないよ。だって、あの部屋、前の住人が…」
友人の言葉が途切れた。涼子は友人の視線の先を見た。
向かいのアパートの窓に、あの男性が立っていた。男性はニヤリと笑い、涼子に向かって手を振った。
涼子は悲鳴を上げた。
男性の姿は消え、窓には何も映っていなかった。しかし、涼子は確かに見た。あの視線、あの笑顔を。
涼子は恐怖で震えながら、カーテンを閉めた。
それ以来、涼子は二度と窓を開けることはなかった。
そして、あの男性が誰だったのか、なぜ涼子を見つめていたのか、涼子は知ることはなかった。
ただ一つ確かなことは、あの視線は、今もどこかで涼子を見つめているということだ。
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