般若の面
東京、下町の路地裏にひっそりと佇む古びた骨董品店。その薄暗い店内には、所狭しと様々な品々が並べられていたが、ひときわ異彩を放つ品があった。それは、能面の中でも最も恐ろしいとされる般若の面だった。
店主は、その面を数年前に地方の競売で手に入れた。曰く付きの品だと聞いていたが、その妖艶な美しさに惹かれ、高額で落札したのだ。しかし、店に飾ってからというもの、奇妙な出来事が続くようになった。
ある満月の夜、店の近くで若い女性が殺害される事件が発生した。被害者は、喉を切り裂かれ、無残な姿で発見された。警察は捜査を進めたが、犯人の手がかりは掴めなかった。
数日後、再び同様の事件が発生した。被害者は、やはり若い女性で、手口も同じだった。警察は同一犯による連続殺人事件と断定し、捜査を強化した。しかし、犯人の影は一向に掴めなかった。
そんな中、あるベテラン刑事が、骨董品店の般若の面に興味を持った。彼は、店主から面の曰くを聞き、ある仮説を立てた。「もしかしたら、この般若の面が、誰かを殺人鬼に変えているのではないか?」
刑事は、店主の許可を得て、般若の面を借り受け、自宅に持ち帰った。そして、その夜、一人書斎で般若の面を手に取った。薄暗い部屋の中で、面は不気味な光を放っていた。彼は恐る恐る、面を顔に近づけた。
次の瞬間、彼の意識は闇に呑み込まれた。
翌朝、刑事は変わり果てた姿で発見された。顔には般若の面がしっかりと固定され、目は虚ろで、手には血の付いたナイフが握られていた。彼の自宅からは、複数の若い女性の衣服や所持品が見つかった。
警察は、刑事が連続殺人事件の犯人だったと発表したが、彼の同僚たちは、彼がそんなことをするはずがないと信じられなかった。しかし、証拠は彼の犯行を裏付けていた。
その後、般若の面は行方不明となり、連続殺人事件も迷宮入りとなった。しかし、人々は、今もなお、あの不気味な般若の面が、誰かを殺人鬼に変え、新たな犠牲者を生み出していると噂している。
東京の夜空には、今日も満月が不気味に輝いている。あの般若の面は、一体どこで、誰の顔を覆っているのだろうか。
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