おかえりなさい
田中さんは、最新のスマートホームシステムを自宅に導入したばかりのITエンジニアです。
このシステムは、家の照明、音楽、温度調節などを声やスマートフォンで完全にコントロールできる非常に高度なものでした。
ある土曜の夜、自宅でリラックスして映画を楽しんでいました。ポップコーンを手に、ソファに深くもたれかかり、スクリーンに映るサスペンス映画に夢中になっています。そのとき、家は完全に静まり返っており、外の風の音だけが聞こえていました。
突然、家のスマートホームシステムが明るく快活な声で「おかえりなさい」と言いました。田中さんは思わずポップコーンを手にこぼし、ソファから跳ね上がりました。
「何だ?」と声に出して呟きながら、周囲を見渡しましたが、誰の姿もありません。心臓の鼓動が速くなり、冷たい汗が額に滲み始めます。
「バグかな…」田中さんは自分を落ち着かせようとしながらも、スマートフォンを手に取り、システムのログを確認しました。しかし、ログには不審な点は一つも見つかりませんでした。
それでもなお、不安を感じた田中さんは家の各部屋のセキュリティカメラをチェックし始めます。
カメラの映像を一つ一つ確認していく中で、リビングのカメラがふと映し出した角度から、ソファの背後の隅にほんの一瞬、何かが動くのが見えました。映像を戻して再確認しようとするも、その瞬間はもう映っていません。
不気味に感じつつも、「気のせいだろう」と自分を納得させ、映画に戻ろうとしたその時、スマートホームが再び「おかえりなさい」と繰り返しました。今回は声がいつもより低く、田中さんの名前を呼ぶように聞こえました。
急いでスマートホームの電源を切ろうとした田中さんですが、その前に家の電気がすべて消え、暗闇が全てを覆います。
そして、暗闇の中から、何者かの足音が、じわじわと近づいてくるのが聞こえてきました…。
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