猫と暮らすおばあさん
郊外の静かな町に、70代の母親とその息子が40匹以上の猫と共に住む家があった。この家は近所からの苦情が絶えず、役所の介入も頻繁にあったが、改善されることはなかった。
息子の健一は、地元で少し変わり者として知られており、40代後半にも関わらず、人との交流をほとんど持たず、ほとんどの時間を家の中で猫たちと過ごしていた。日中は庭で猫と遊んでいる姿がたまに見られたが、近所の人たちとは目を合わせず、必要最小限の会話しか交わすことはない。
幼少期から病弱で引き篭もりがちな彼からすれば、人と交流を持たず、動物と意思疎通するのは必然だったかも知れない。
そんな健一だが、ある夜、彼は自宅のソファで静かに息を引き取った。体調が悪化し、痛みに顔を歪めながらも、最後は可愛がっていた猫たちに囲まれ、穏やかに眠るように亡くなった。部屋の静けさの中、母親のトシエはただ静かにその場を見守っていた。
息子の突然の死後、猫の数が次第に減っていく。
近隣の住人は安堵の表情を浮かべたが、ある日、役所の職員である大島がトシエの家を定期訪問したとき、彼は驚愕の光景に遭遇した。トシエはキッチンで猫を調理して食べていたのだ。
不気味な笑みを浮かべながら、慣れた手つきで捌いていくその情景は、異常としか例えようがなかった。
多頭飼育に傾倒した健一よりも、よっぽど母親のトシエの方が異常だったのだ。しかし、大島はトシエの異常な行動を報告しなかった。彼は自身が黙ってさえいれば、猫が減ったという事実だけが残ると考えたからだった。
やがてトシエの家から猫は1匹もいなくなった。猫が減少するようになってから、街では誘拐事件が頻発するようになっていた。被害者は全て幼児で、年齢は2歳から5歳までの子どもたち。
地元警察は行方不明事件を重大な誘拐事件として扱い、捜査を開始した。警察は目撃情報、監視カメラの映像、そして地域の住民からの情報をもとに捜査を進めた。しかし、事件の手がかりはほとんど得られず、地域社会の不安は日に日に高まっていた。
大島は気づいていた。すべての行方不明事件がトシエの家から半径500メートル以内で起きているということを。
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